イケウチな人たち。

by IKEUCHI ORGANIC

好きな人たちと考える、これからの豊かさ

イケウチな人たち。について

本屋は、本屋を超えてゆく。表参道「青山ブックセンター本店」が照らす「小売」の未来

- 「青山ブックセンター」本店店長・山下優 -

「何かを買おう」とする時、「どこで買おう」と考える機会は、日常の中でどれくらいありますか?

たとえば「電池」を買うときに、その店が最寄りのコンビニなのか、町の顔なじみの小売店なのか、はたまた大型家電量販店、ウェブショップなのか、とか。そういうことです。

「買い物は、未来への投票だ」と形容されて久しい昨今。「何を買うかは、何を未来に残したいかにつながる」という捉え方は、モノだけでなくお店にも当てはまると筆者は考えます。

さて、では。

そんな風に、「買い手が、何を、どこで買うかが自在に選べる現代」において、「果たして、売り手はどうあるべきなのか?」。多くの売り手と同じく、その解を探し続ける本屋が、東京・表参道にあります。

その本屋の名前は「青山ブックセンター本店」。「本屋の存続が危ぶまれる」とまことしやかにささやかれる中、根強いファンと、感度の高い顧客層を抱えるこの本屋は、ほかの店と一線を画す勢いで前年比月間売上を何度も更新。

店の牽引役は、現店長・山下優さん。彼は、「本は、日本全国どこで買っても中身が一緒だからこそ、本屋としての在り方を工夫していかないと生き残れないと思う」と語ります。

たとえば2019年夏には、同じく表参道エリアに店舗を構えるIKEUCHI ORGANICとコラボしたブックフェアを開催。「IKEUCHI ORGANICを本に例えると?」をテーマとした25名の選書と、タオルを同時に販売しました。

左)青山ブックセンター本店 店長の山下さん 右)IKEUCHI ORGANICの牟田口 ブックフェア開催中は、両店で対象商品を購入すると、タオルハンカチがプレゼントされる仕組みを作った

「本を売る」という従来の本屋の枠組みをはみ出し続ける「青山ブックセンター本店」の進む道の途中には、もしかしたら「売り手としての努力」に悩む、多くの小売に携わるの人たちの未来が隠されているかもしれない――。

そんな仮説を携えて、『イケウチな人たち。』編集部は山下さんにお話を伺いに行ってきました。

書店業界・本屋って聖域っぽく、中の人も思っていて。外の人も正直よくわからないみたいな世界で。「なんとなく守られてる風」なんですけど、実際は守られていない。世の中にあるさまざまなコンテンツと「時間を取り合って戦っている」なかの本屋・本だと思っているんです。そう意識すると、たとえばロゴを変えたりとか、動画作成、イベント、他業界とのコラボレーションなども自然と守備範囲に入ってくる。というか、やらざるを得ないんじゃないかなって思っていますね(インタビュー中の山下さんのことばより、抜粋)

意識化されていないものを意識化できる店にしたい

「山下さんが登場する雑誌『ユリイカ』(編注:2019年6月臨時増刊号 総特集=書店の未来)がおもしろかった。出先だったため、最初は電子書籍で読んだが、あれは手元に置いておきたい本だった」と感想を述べた筆者に対して……

ありがとうございます。ぜひ、うちの店で買って帰ってください!(笑)。

……でも、本って、正直どこで買っても『ユリイカ』は『ユリイカ』で変わらないんですよね。

それだと「青山ブックセンター本店で買う」という動機がどうしても弱くなってしまうので、そこをどう工夫するのか、ということをつねに考えています。

さらに言うと、たとえば「『ユリイカ』がほしい」、もちろんそれだけの方もいると思うんですけど。来店された時に「これもあったんだ」「こんな本も気になる」など、「意識化されていないものを意識化できるようなお店であるためにはどうすればいいんだろう」ということも、つねに考えています。

表参道にいらっしゃる方は、アートやクリエイティブに造詣が深い方もたくさんいて、少し尖った本でも、適切な売り方をすれば、確実に買ってくださる土壌がうちにはあります。

同じ本を、複数の棚にまたがるように置いてある理由は、本は各ジャンルを横断するものだから。本棚の編集(何の書籍を置くのか)は、基本的には各棚の担当者に任せています。

取材時は、「組織の発酵を促す21冊 環境大善の発酵経営」ブックフェアを、北海道北見の地で生まれた、天然成分100%の消臭剤「きえーる」とコラボ開催していた

「なんだか棚がおもしろい」「BGMがいい」「イベントをたくさん行っていて、楽しい」。本屋は、本を並べるだけではなく、広い意味で「編集できる場なのだ」という意識で、いろいろなことにチャレンジしている途中です。

僕たちもまだ、何が正解かなんて全然わからないので、日々必死で試行錯誤している感じですね。

2019年8月末に実施した「店内ツアー」

2019年12月9日〜1月31日の期間展示「#なかむらしんたろうを拡張する展示」

「本を読む」という文化と、Amazonについて

いきなり脱線してしまうかもしれないのですが、先程の電子書籍の話も少し。なぜかというと、本屋の在り方を考える上で、やっぱりAmazonの影響は大きいですよね。

Amazonって、多分日本で一番大きな書店だと思うんですが、「Amazonによって本屋の売上がどうこうなった、落ちた」という気持ちより、「Amazonがなかったら、もっと本って読まれなくなっただろうな」という気持ちの方が大きくて。

Amazonが、本やKindle本を本屋がない地域にも届けているから、今も本がこれだけ売れてくれているんだろう、と考えています。だから、Amazonを「ライバル」とは思ったことはありません。

もっと本が読まれなくなったらもっと本屋は潰れるし、そもそも本を読む文化がなくなってしまったら、本は売れない。

だから、Amazonがなかったらと想像すると、ぞっとしますよね。Amazonがなかったとして、その売上がじゃあ僕たちみたいなリアル書店に落ちるかというと、きっとそうじゃない。スマホの中の世界、たとえばNetflixとかに移行してたんじゃないかなぁ。

電子書籍の読み放題サービスKindle Unlimitedも、脅威ではないです。音楽のサブスクリプション、たとえばSpotifyは聞き流せちゃうけれど、本は「読み流す」が難しい。

あとは、僕、昔から音楽が好きで。原宿のレコード屋「BIG LOVE RECORDS Harajuku Tokyo」に学生時代から今も通いつめたり、海外のライブ会場に行った時に、レコードを「思い出として」も買って帰るお客さんを見てきたりして、「本もきっとレコードのようになっていくんだろうな」と。

つまり、本にも「手元に置いておきたい」という需要があると思っているので、デジタルの興隆という文脈に対して、否定的ではまったくないです。

本屋の在り方に密接に関わる、書店員の在り方について

ちょっと話がそれちゃったんですけど、本屋の在り方を見直すとき、書店員の在り方も考え直したほうがいいと僕は思っています。

今までは、書店員は、本に詳しければそれでよかったと思うんです。でも、どれだけ「この本が面白いです」と言い続けても、人が来なければ仕方がないし、「この本だけ」買ってもらっても、広がりは期待できない。

なので、「違う軸を持つべきだろう」というのが僕の仮説です。

……というのは、元々自分がそんなに本読みじゃなかったからかもしれません(笑)。もちろん本は読んでいたけど、「追いつかないな」とある時気づいて。

何冊読んでも、寝ないでやっても、「あるジャンルに関する点の深さ」で言ったら、お客様の方が詳しいなんてことも往々にしてありうる。

じゃあどうするかといったら、「中の人がどう考えているのか」をまず発信することじゃないか、と思っています。

たとえば、音楽のほかに、昔から洋服も好きで。「目の前にいる店員さんが、どう考えているのか」が見えるアパレルショップは、顧客との結びつきが濃く、強いなぁと感じてきました。

近年は、もっとその傾向が強まっていると感じていて、店員はもちろんのこと、ブランド自体が「どう考えてやっているのか」が見えないと難しい。

だって、洋服だったら、極論ですけどユニクロがあれば困らないわけですよね。そこに対して「うちのブランドはどう価値がある」とか「何を思って作っている」というのを、打ち出してくれないと、「選ぶ理由」が見えてこない。押しつけがましいのも好きではないのですけど(笑)。

ただ、アパレルは「モノ」を工夫できるから、違いは出せる。

でも、本は何度も繰り返してしまうように、どこで買っても一緒なので。ますます、どういう考えの人が、どういう考えでこの本を置いているんだ、とかっていうのを伝えることができないと、「そこで買わなくていいよな」ってなっちゃうかなと思っています。

青山ブックセンター本店は、現在独自の出版事業の立ち上げにも奔走している。彼の試行錯誤の道に、「業界の常識」という壁はまったく見えない

立ち位置を明確にすることで得たもの

僕自身の経験について言えば、個人発信のきっかけは、2018年に公開された、この記事の影響がとても大きいです。

青山ブックセンター書店員 山下優さんに聞く、本が売れる店作り
https://newswitch.jp/p/14487

僕は「記事に必要かな?」と感じて、記事内で言及することを最後まで迷ったのですが、取材してくださった記者さんが、「ヘイト本は置かない」という棚作りのポリシーについて、すごく価値を感じてくださって。載せましょう、と強く言ってくれました。

それで、当時イチアルバイトだった(!)僕の書店員としての意見を載せたんですが、結果、記事に想像を超える反響が集まって。半分が書店員について、もう半分がヘイト本にまつわるものだったんです。

ヘイト本に関しては、もちろん賛否両論含めてではあったんですが、「書店員がどう思っているのか」を発信して、立ち位置を明確にしたことで、得たものがたくさんありました。

たとえば「そういう思想がある書店なら、ここで出版記念イベントをやりたい」という問い合わせをいただけたり、特別なオファーでなくても「書店員がどう考えているかを知ることができてよかった」という主旨のメッセージが多く届いたり。

今まで関わってくださっていた方々が、「青山ブックセンター本店をどう思ってくださっているのか」についても知ることができた、貴重な機会になったともいえると思います。

世間的な流れでいっても、2018年にNIKEが人種差別について言及するアメフトのコリン・キャパニック選手を広告に起用したり、2019年にパタゴニアが選挙当日は全店舗を閉店とする、つまり選挙に行こうとメッセージを打ち出したことが、大きな反響を得ましたよね。

やっぱりこれからは「顔が見える」じゃないですけど、「中のひとが何を考えているのか」、ということがさらに重要になっていくんじゃないかと思っています。

経験を積む上で、螺旋階段を登っていった

「当時アルバイトだった僕が、どうして店長になれたと思いますか」って、たまに聞かれます(笑)。でも正直、店長になるなんて1ミリも思っていなかったですね。

イチ書店員として、降ってきたものをガムシャラにやっていったら、段々と見える景色が変わってきたというか。

ひとつのジャンルの棚しか見られていなかった状態から、複数棚に変わって、最後には店全体を考えるようになって。その後にイベントをたくさん打つようにしてみて、イベントをやったら著者さんにたくさん会えて、また思考が熟成されていった、というイメージです。

中でも、いとうせいこうさんの『ラブという薬』の刊行記念イベントの経験は、印象に残っています。普通、刊行記念イベントって一回きりなんですが、いとうさんがトークイベント中に「ここでまたやりたい」とおっしゃってくださって。

次もやって、また次もやって。と、結局4回実施して、毎回満員。最終的には100名以上が参加するフェスまで開催してしまいました(笑)。

「青山多問多答 続・ラブという薬」
いとうせいこう × 星野概念 × お客さま=対話型トークショウ
http://www.aoyamabc.jp/event/themedicine-called-love2/

青山多問多答フェス(続・ラブという薬)
http://www.aoyamabc.jp/event/themedicine-called-love-fest/

その告知をする中で、いとうさんが「本屋を駆け込み寺みたいな存在にしたい」と言ってくださったんですよね。

「とにかく本は全ジャンルにまたがるから、どんな専門家でも呼べる場所だ」と。

その言葉で、「本屋の場としての可能性」に改めて目を向けたいと思うようになって。今では「人が集まる場」としてだけでなく、「お客さん同士が出会える場所になったらいいな」と考えるようになりました。

「異業種の人との交流が盛んですよね」、と言ってもらえることも多いのですが、強く意識しているわけじゃないです。

出会いの時からコラボを目論んで近づいているわけでもなくて(笑)。仲良くなるうちに、何か一緒にやりましょう、となれた方が自然かなと。

ただ異業種の方々って、普段見ている世界や角度が違う方たちだから、関わらせてもらうこと自体が大きな刺激ではありますよね。

最近は、「違うこと」それ自体が豊かさかもしれないという想いもあるんです。

円が完全に重なっていなくても、同じ価値観や感覚を共有できていることが大切というか。

たとえば同じ本が好きでも、捉え方が違う。IKEUCHI ORGANICのタオルが好きでも、好きな種類や惚れ込むポイントが違う……。ディテールは違えど、否定せずに、でも大事なことを共有できている状態が、じつはより豊かで今らしいのではないかと。

「異業種だから」「目新しいから」「本屋と何かを掛け合わせることが流行っているみたいだから」。そういうレイヤーの話ではなく、「同じ価値観や感覚を共有している」と感じられる方々と、実際にコラボが生まれていっている気もします。

彼らと話をするときに、「出版業界のことしか知らない」では格好悪い。だから、つねにアンテナを広く張り、彼らと対等に、楽しく会話できる自分でいるための努力をしたいとは考えています。

自分は正解じゃない。それに、正解すらつねに変わっていく

いろいろなインタビューや連載で言及していることではあるのですが、昔、編集職に憧れていました。冒頭でも申し上げたとおり、いまは「本屋という場所を編集している」つもりで、楽しくやれています。

「本屋になりたい」と考えていなかったからこそ、柔軟になれた、という側面はあるかもしれません。自分の中での「正解の像」がないから、具体的な「理想の形」というのもとくにないですし。

今の世の中全体に言えることかもしれないのですが、やっぱりもう正解がつねに正解じゃないというか。その瞬間は正解だったとしても、すぐにそれがそうではなくなるし。

だからこそたくさんの手を打ってみて、進みながら考える。

そういう中で、うれしい話にも出会えたりします。

じつは最近、「青山ブックセンター本店で働きたい」という、応募の問い合わせが増えてきたんです。

しかも、これまでは40〜50代の方の応募が中心だったのですが、最近は年齢層が変わって、10代の学生〜30代の方の応募が多いです。若い方は、新卒でどこかに就職してから、辞めてうちを希望される、というケースもあるので、みんな色々悩んでいるんでしょう。

でも、そこで「本屋で働く」という選択肢が浮かんでくれるっていうのは、また新しいのかなと。個人書店でも、大型チェーン書店でもない、うちみたいな規模だからこそ見せられる「自分じゃなきゃできない仕事」への希望みたいなものもあるのかもしれないなと感じています。

現状でいえば、まだ本屋の可能性は残されていると思っています。もちろん、今後も書店の数は減っていく。でも、今までが「多すぎた」側面もあると考えていて。

その中で、青山ブックセンター本店が「どんな形になっているのか」は見えていないけれど、見えてないからこそ、どうあるべきかみたいなことを、次の世代と一緒に考えていけたら。

表参道の土地に店を構えて23年。本屋は別にえらくないけど、「本屋があることによって人の流れが変わる」という要素がありますし、街や社会を豊かにできる存在だと思います。「青山ブックセンター本店」は、そういう存在であれたらいいですね。

青山ブックセンター本店・店長の山下優さん。入り口近くの、窓が大きく取られた気持ちがいい雑誌棚の前にて

青山ブックセンター
執筆:伊佐 知美/撮影:木村 雄司/編集:藤村 能光

WRITER

ライター / フォトグラファー
1986年新潟県生まれ。横浜市立大学卒。三井住友VISAカード、講談社勤務を経てWaseiに入社。どうしても書き仕事がしたくて、1本500円の兼業ライターからキャリアを開始。現在は世界各国、日本全国を旅しながら暮らしています。とにかく旅と写真と文章が好き。

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