イケウチな人たち。

by IKEUCHI ORGANIC

好きな人たちと考える、これからの豊かさ

イケウチな人たち。について

「商品企画でヒットは目指すな、会社も潰すな」って両立できる?

-セメントプロデュースデザイン 金谷勉

東京都は墨田区、スカイツリーからほど近い場所に、「コトモノミチ at TOKYO」というショップがあります。

運営するのは、デザインプロデュースの会社「有限会社セメントプロデュースデザイン」。セメントプロデュースデザインが、日本各地の中小企業、悩んでいる町工場や、工芸の職人たちと一緒につくった、コトやモノ、ミチ(流通)を伝えるための場所です。

「このままだと、会社が危ういかもしれない」
「下請け仕事がなくなってしまったら、どうやって会社を続けていけばいいのだろう」
「今は経営が成り立っているが、近い未来以降、うちの会社は大丈夫なのだろうか……?」
経営者であれ、担当者であれ、会社の未来を憂う気持ちを持つひとは少なくないはず。

セメントプロデュースデザインは、そんな中小企業の方が、「助けてください」「一緒に会社の未来を考えてください」と、自社商品開発を目指して駆け込む、寺子屋的存在です。

愛知県瀬戸「株式会社エム・エム・ヨシハシ」の「Trace Face Light (トレースフェイスライト)」

大阪府松原「渡辺徽章株式会社」の「EMBLOOM(エンブルーム) / リボンピンズ」

何を隠そう、このメディアを運営するIKEUCHI ORGANICも、古いご縁から、セメントプロデュースデザインと「Towelie Towelie(タオリータオリー)」という商品を作っています。

1枚3役の親子タオル「Towelie Towelie」。通常のハンドタオル、専用ホックを止めるとよだれかけ、広げてミニカーやままごとで遊べる道路などとしても使える遊び心たっぷりの商品だ

セメントプロデュースデザインが、全国の中小企業からラブコールを受け続ける理由を紐解くために。そして、こんな想いを持って中小企業と伴走してくれる会社があるのだと一人でも多くの方に知ってもらうために。

『イケウチな人たち。』編集部は、代表・金谷勉(かなやつとむ)さんを取材し、詳細を聞かせていただくことにしました。

「セメントプロデュースデザイン 」代表取締役の金谷勉さん

セメント発イノベーション行き

金谷さんはデザイナーではない。
日本の町工場に対して
特別なシンパシーもないし、
社会事業家でもない。
合理性がベースのプロデューサーだ。
緻密に情報を得た上で、「組み合わせ」を考える。
ひどく手間がかかる。
参ったなと思うことも多いが、
途中で止めない。

イノベーションは「組み合わせ」である
いずれ、セメント発のイノベーションが生まれる予感がある

2020年3月5日放送「カンブリア宮殿」村上龍さんコメントより抜粋

ビジネスをデザインできる会社でありたい

セメントプロデュースデザインとは、どんな会社なのでしょう?

もともとは、デザインが本業の会社です。現在の事業内容は、デザインとプロデュースが柱。

地域の中小企業のデザイン、プロデュース等の多面的支援のほか、皆さんがご存知の企業、たとえばユニクロやコクヨ、星野リゾートなどのデザインプロデュースも手がけています。

ただ、5年ごとに自分の中で仕事の棚卸しをしていて、創業20年目を迎えた今年によく言っているのは、「ビジネスをデザインできる会社にしたい」ということ。

デザインやプロデュースなど、事業内容を横文字で表現しなければならないことが、個人的にあまり好きではなかったりもしますし(笑)。

えっ、なぜですか?

地域でまことしやかにささやかれている「3大うさんくさいワード」って知っていますか?

コンサル、デザイン、そしてプロデュース。セメントプロデュースデザインはコンサルもしますし、会社名にあと2つのワードも入ってしまっているという(笑)。
ほかに、うちの仕事を表すいい言葉があればいいんですけどね。なかなか見つからなくて、地域講演の際は「怪しい……」という空気が立ち込めて、苦い思いをすることもあります(笑)。

伴走はする。でも「あなたが決めてくださいね」

セメントプロデュースデザインさんを頼られる企業は、どんな業種・状況の方が多いのでしょう?

業種は本当に様々。状態は、ABの2種ありそうです。

Aは、もう切迫していて、今すぐ何か手を打たないと会社が潰れてしまいそう、という状態の企業さん。Bは、現状は比較的良好なんだけど、5年10年先の未来設計のために、次のネタを仕込みたいという企業さん。
カンブリア宮殿の放映後は、後者の問い合わせが増えた気がします。

静岡県熱海市「西島木工所」の、「切る」「盛り付ける」ことができるまな板「face two face(フェイス トゥー フェイス)」

でも、どちらにせよコンサルセッション前に必ず言うことがあります。それは、「セメントプロデュースデザインに頼んだら大丈夫、というやり方はしないんです」という話。

というと……?

皆さんの会社なので、僕らはみなさんと同じ社員になったつもりでやります。「でも、僕らに頼んだから、言われた通りに進めていけばいいんだー……というやり方を僕はしないので」というのは必ず伝えます。
僕らのことを、魔法使いみたいに思っている方が結構いらっしゃるので。

ビオフェルミン飲んだから、お腹が痛いのが治りました!とかではないんです。自社商品の開発って、難しいんですよ。もしかしたらうまくいくかもしれないし、いかないかもしれない。

有名な大手メーカーさんでさえ、優秀なマーケターがたくさんいて、毎日毎日商品を作っているのに、売れていない商品もあるんです。皆さん、その事実を知っています?って。

あんなプロ集団がやっていて売れないことがあるのに、今から初めて自社商品を作るみなさんが、絶対に成功するなんてことあるわけないじゃないですか、と。

うん、そう。ただ、その「売れるかどうかわからない」という不確定要素をできるだけ消していくという作業は手伝えるし、伴走もする。

ひもが離れないように僕らも全力で走る。でも、皆さんが走らないと、僕らが走っても仕方がない、進めないですよ、とね。
前に行きすぎないように、後ろに行きすぎないように、一緒に走るけれど、あくまでも主体は相手の会社ということ。

そうそう。でも彼らは、そもそもみんなとっても優秀なんですよ。「これを作ってください」と頼まれたら、ものの数日で素晴らしいクオリティの試作品を持ってきてくださる会社が本当に多い。

でも、真っ白なキャンバスを目の前に、「さて、どうしましょうか」「これから何を作りましょうか。何でも作っていいんです」と言ったら、「どうしたらいいんでしょうね」と止まってしまうという。

今まで下請け仕事をずっと続けてきた会社さんだったら、それはそうですよね。そういう企業さんに、「自分で決めてもらう」ということは、すごく意識してやっています。

「圧倒的な技術力」を探しているわけではない。すべての会社にいいところはあるはずで

セメントプロデュースデザインさんが手がけられている商品――つまり、「コトモノミチ at TOKYO」にある商品は、すべて素敵なものばかりです。一緒に取り組みを行う企業の基準は、やはり光る技術があるかどうか、でしょうか?

や、そんなことないですよ。

(えっ)。

そんなことは全然ないです。

違うんですね。すみません、インタビュアーにあるまじき誘導質問をしてしまいました。

いえ(笑)。もちろん技術力があるに越したことはないですし、光る技術を持っていらっしゃる企業さんも多いです。

でも究極の話、語弊がありそうですが、どの会社さんも使っている設備はほとんどみんな同じですよ。それこそ、イケウチさんの織機だってそうじゃないですか?

設備がほとんど変わらない中で、最大の武器であったはずの規格も、たとえばですけどユニクロさんと東レさんが組んでしまったりしたら、格安になるじゃないですか。もちろん設備も重要要素ではありますが、そこが難しいところで。

だから、うちのコンサルでは、まず多面的に状況をヒアリングします。

(ふむふむ)。

こんな感じで(取材時にすべて見せてくださいました)、コンサルの項目は全部で最大51あります。
聞き取りの中では、事業に直接関係あること以外、たとえばその会社さんのメンバーの、パーソナルな情報や、性格や趣味嗜好なんかも最初に聞くんですよ。

SNSで1,000人フォロワーいる人とか、普段の業務は事務だけれど、じつは会社が大好きだから、自社商品が完成した暁には営業がしたい人がいるのだ、とか。

会社の見えない強みを探すために、じつはそういったところまで、最初のセッションでは探ります。

それらの情報が、自社商品開発の役に立つことがあるんですね。

まあ、何が活きるかはわからないじゃないですか。

自社商品開発のための糸口を見つけるのは、難しいとは思いますけど、できるだけ探しますよね。

会社の技術の部分にあることもあれば、倉庫に眠っている機械にあることもあるし、本当にチーム構成員、人の部分によることもあります。

その会社を今後支えていく可能性がある自社商品の開発って、チームメンバーがどんな人で、今までどんな風に働いてきてたかっていうことも大事だと思うんですよね。

……というように、本当に様々な「会社の状況」を話して、どんなものを作るべきなのか、ということを考えていくので、圧倒的な技術力がないと自社商品開発が作れない、ということはないと思ってます。

「ヒット商品を作る」<「会社が続く」が最終ゴール

セメントプロデュースデザインが、様々な企業と二人三脚する上でのゴールって、どこに置いているんですか?

その会社がつぶれないこと。ぶっちゃけ、商品が売れなくたっていいと思っているんです。その会社がつぶれんかったら。

作った自社商品が、たとえ売れなくても……?

いいです。会社がつぶれなければ。

根幹は、絶対にそこなんですよ。

その会社が、今後どうやって生き残るか。たとえば一緒に考えた自社商品は1個しか売れなかったけれど、テレビ取材がちょこちょこ入るようになりました、となったら、仕事は必ず違うところから入ってくるはずなんです。そうしたら死なないですよね。

企画した商品を絶対にヒットさせようなんて、僕は思っていないし、それを目的に進めてもいないんですよ。

とはいえ、驚くほどのヒット商品を生み出しているのがセメントプロデュースデザインだ。福井県鯖江市「株式会社キッソオ」は、「Sabae mimikaki」のヒットを皮切りに、アクセサリー事業部の売上が5年で12倍に。今ではセメントプロデュースデザインにデザイン仕事を発注しているという(素材提供:コトモノミチ)

京都府「株式会社竹内」の「蚊遣り KUYURI(くゆり)
錺金具 / かざりかなぐ」も、2020年夏にSNSでいわゆる「バズ」を起こし、
脚光を浴びている(素材提供:コトモノミチ)

「ヒット商品を作ろう」が遠いゴールではない、と。

全然。だから、究極の話としては「自社商品開発」じゃなくてもいいんですよ。

コンサルしていく中で、「工場のおっちゃんが、アナログ・自己流で使っている工場管理の手帳にノウハウが詰まっている!」と判明したら、その情報を商材にしたっていい。

「コトモノミチ at TOKYO」に並ばなくても、ロフトやハンズで売られなくてもいいじゃないですか。

結構ね、皆さんそこを勘違いされている方も多いんですけど。繰り返しますが、会社がなくならなければいいというのが、僕の考え方です。

いわゆる「ランチェスター戦略」的に考えればですよ。みんなが1,000円で売っているんだったら、500円で売るのがビジネス的にはいいかもしれないですけど、無理なんですよ。

お金がないし、人もいないしという状況で500円が実現できないんだったら、どうやって2,000円で売るかを考えたほうがいい。そのときに、できるだけ低ロットで機械をこう回転させるべき、とかはもちろん考えますけどね。

製造業の会社がつぶれていっちゃったら、セメントプロデュースデザインの仕事も減るんです。僕らの業界のもともとのベースって、製造業の人たちが頑張って稼いだら、カタログが必要になって、フォトグラファーも印刷会社も必要だよねってなって、どんどん仕事が回転していく状況にある。

中小企業が次々と海外資本の会社に買収されてしまったりしたら、日本の市場は縮小するし、そしたらやっぱり僕らの仕事もなくなります。

セメントプロデュースデザインとしても、次の需要を創出して、「頼むならあいつらに頼もうぜ」と言ってもらえるような仕事をする必要があるでしょうし、そのために中小企業をつぶさない、っていうのが本来の根幹かと思います。

結果的にヒット商品が生まれたらそりゃみんな幸せですけど、最初からそれを目指したらいい方向にいかないこともある。っていうようなことを、やっぱり会社さんには都度お話しています。

自分たちが体験した「生きた言葉」だから、多くの人と企業がついてくる

セメントプロデュースデザインは、もともとデザインの下請けがメインの会社で、ゼロから「自社=セメントプロデュースデザインの商品」の開発に乗り出しました。

セメントプロデュースデザイン起業初期に、自社商品として作った「Happy Face Clip(ハッピー フェイス クリップ)」。今では全国講演の冒頭で必ずといっていいほど話される、伝説のような商品だ。製造は大阪府東大阪市「成瀬金属株式会社」(素材提供:コトモノミチ)

今でこそ「地域を救う」とか「中小企業の活性化」などのイメージで語ってもらうことも多い弊社ですが、じつはそういうことを狙って自社商品開発をスタートさせたわけではありません。

デザインの仕事をやらせてもらう中で、Macなど新しいデバイスが台頭し、これからはデザインという仕事の捉え方、在り方を変えなければならないと感じたこと。

そして、その未来の中では、自分の考え方や立ち位置を変えていくことになるんだろうなぁと考えたこと。
その頃からですかね。中小の事業者さんにとって、デザインがどういう風に機能していったらいいのかなと考え始めたのは。

その一環として、自分たちでプレゼンテーションできる現物として、自社で作ったものを売っていく、ということがしたくて、始めたのがセメントプロデュースデザインの自社商品開発です。

詳しくは自著『小さな企業が生き残る』や僕のnoteに書きましたが、はじめは散々でした(笑)。

地方出張が多く、不在がちな自分の後輩の成長のためにも、自社商品開発には力を入れたかったそう。金谷さんの持論は「デザイナーの成長速度は、先輩に比例する」

でも、自社商品開発を、自分たちで考えて、作って売るということを、小さくても体験したことは本当に大きな財産でした。

体験したことがあるからこそ、最近こういうデザインはだめみたいですよとか、パッケージや重さはどうしたらいいとか、実感値として、温度のある言葉が生めるようになりますからね。

あとは、その過程で、流通の人たちとつながったことも大きな出来事。自社商品開発なんてやってなかったら、イケウチさんとも仕事してなかったと思いますよ。だって、親和性が全然ないから。

コンサルティングについても、必ず自社向けに投資して、体験するという過程を経てきた、と金谷さん。体験したことを仕事に活かすサイクルを、無意識にでも大切にしている人物ということも、多くの地域の中小企業が信頼を寄せる理由のひとつかもしれない

やっていることは、じつに地味なんですよ。縁ある企業さんの伴走をしているだけですから。

ただ、普通のデザイン会社で終わりたくないっていつも言うんですよ。だから、コンサル資料は必ず銀行融資や補助金申請で使えるような、あとで見返したいものを残すようにしたり、展示会に一緒に行ったり。

根幹は、誰かのために何かできたらいいなという気持ちなので。その手段が、たまたまデザインだったりプロデュースだったりしているだけで。もし僕がお医者になってたら、違うアプローチだったんでしょうし(笑)。

まぁ、こんな感じが、僕がやってるセメントプロデュースデザインという会社の形なんだと思います。

取材を終えて

驚くほど、いわゆる「手の内」をためらいなく語ってくださる金谷さん。

その理由を聞くと、軽やかに笑いながら「だって、日本全国の300万社の中小企業、僕らだけじゃ救いきれないですもん、絶対」と。

金谷さんの書籍『小さな企業が生き残る』の後半には、コンサルティングのための資料が、これでもか、と詰まっています。その充実ぶりは、「実際にこの本を参考にして、コンサル案件を2件獲得した人がいる」というエピソードからも伺えます(筆者も読んだのですが、一人でも多くの人に手にとってほしい本でした)。

「『あんなに情報開示していいの』とよく聞かれます。でも、僕(金谷さん)からすると、役立ちそうな部分があるのなら、ぜひコピーして真似てください」という感じ。

「セメントプロデュースデザインがやっている中小企業支援、ブルーオーシャンですよね」なんて言われますけど、まだブルーオーシャンにすらなっていないですからね。もっと広がらないと料金も価値も一定化しない。うちの価格設定が、高いのか低いのかもわからない状態が今。

300万社ある中小企業、もっと救いたいじゃないですか。うちだけじゃ絶対に無理ですよ。だから、どんどん真似して、同じようなことをする企業が増えたらいいな、と思っています」

金谷さんに、最後に社名の由来について伺いました。セメント、という言葉は、プロレス業界で「ガチンコ勝負」を指すのだそう。

ガチンコ勝負。真剣勝負。未来を憂う本気の企業に、セメントプロデュースデザインという存在がどうか届きますように。その先に、中小企業の未来が、もしかしたら見つけられるかもしれないから。

執筆:伊佐 知美/撮影:木村 雄司/編集:藤村 能光

WRITER

ライター / フォトグラファー
1986年新潟県生まれ。横浜市立大学卒。三井住友VISAカード、講談社勤務を経てWaseiに入社。どうしても書き仕事がしたくて、1本500円の兼業ライターからキャリアを開始。現在は世界各国、日本全国を旅しながら暮らしています。とにかく旅と写真と文章が好き。

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