イケウチな人たち。

by IKEUCHI ORGANIC

好きな人たちと考える、これからの豊かさ

イケウチな人たち。について

D&DEPARTMENTに聞く「モノの選び方の現在」。これから僕たちは、何をどう選んでいく?

- 「D&DEPARTMENT」 ナガオカケンメイ・黒江 美穂 -

「本物に出会いたい」と思った時、私たちはどこに行って、誰に何を聞けば、いいのでしょう?

数多ある「モノ」の中から、自分で選び、部屋に据え、末長く使っていく。「難しいなぁ」と、筆者は感じます。理由は、「正解がわからない」からです。自分の経験や感性、「出会える幅」をフル活用して選んだとしても、それは果たして正解なのだろうかと自信が持てないこともしばしば。

そんな中、「うちに来たら目をつぶって選んでも、本物に出会える」と教えてくれる人がいます。それは、「D&DEPARTMENT PROJECT(以下、D&D)」創業者のナガオカケンメイさん。

ナガオカケンメイさん

D&DEPARTMENT PROJECT(ディアンドデパートメントプロジェクト)は、2000年にデザイナーのナガオカケンメイによって創設された、「ロングライフデザイン」をテーマとするストアスタイルの活動体です。47都道府県に1か所ずつ拠点をつくりながら、物販・飲食・出版・観光などを通して、47の「個性」と「息の長い、その土地らしいデザイン」を見直し、全国に向けて紹介する活動を行っています(引用:D&DEPARTMENT PROJECT 公式サイト

「時代や流行に左右されることのない普遍的で優れたデザイン」を意味するロングライフデザインの提唱者であり、47 都道府県のモノを旅とデザインの視点から見つめ直すガイドブック「ddesign travel」発行人でもあるナガオカケンメイさん。

彼はまた、IKEUCHI ORGANICのファンであり、「オーガニック120」をD&D創業当時から採用。2013年~14年にIKEUCHI ORGANIC のコーポレートアイデンティティを担当、さらには現社名になるきっかけを与えた人でもあるという、縁深い方でもあります。

(ふふ、これらの事実、知っていましたか? その時のエピソードは、別の記事にまとめていますから、もし良かったら読んでみてくださいね)
デザインは「やって終わり」ではない。ずっと一緒に成長していこう|D&DEPARTMENT ナガオカケンメイ [灯台もと暮らし]

今回は、そのナガオカケンメイさんと、弟子のような存在である「d47 MUSEUM」館長の黒江さんにインタビュー。モノ選びの考え方を様々な形で提唱し続けている彼らは、「モノ選びの現在」についてどう考えているのでしょう?

世の中の「モノ選びの基準」は随分と変わったよね、という話

左から、「d47 MUSEUM」館長の黒江美穂さん、ナガオカさん、インタビュアーの伊佐知美、IKEUCHI ORGANIC の牟田口武志

ナガオカ:僕らが若かった時代は、いわゆる芸能人がいたり、モノ選びに特化したメディアがあったから、「憧れ」が作られていました。ある意味では「モノをとても選びやすかった時代」です。

でも今は違う。わかりやすい憧れはなくなって、いいものはリピートする、新しいモノは友だちのコミュニティの中から選んでいくという時代だから、本当にモノをどうやって選んでいいか、わからなくなった。

ナガオカ:そうなると、当然売り手側の姿勢にも変化が必要になってきます。昔は……昔っていうのは15年くらい前。イケウチって、こういうタオル会社でこうなんです、という説明をすると、お客様がモノを買ってくれることが多かった。つまり「情報でモノが売れる時代」。

でも今は、情報だけじゃ売れない。どんな食生活をするとか、一緒に何をそろえるといいとか、長く使うためにはどんなメンテナンスをしたらいいとかまで一緒に提案しないと、売れなくなった。

つまり「モノがモノでなくなってきた」んですよね。「自分の生活の楽しみのリズムを、刻んでくれるもの」になった。

D&Dはロングライフデザインを提唱しているけど、それって、提唱時は「モノのロングライフデザインのこと」を指していました。でも、今は「生活のロングライフデザイン性にモノがくっついている」に変わった、とでもいうか。

ロングライフデザインなものを買ったら、生活が豊かになると思って買ってたけど、実際はそれを使いこなす自分の生活がロングライフデザインじゃないとダメだった、みたいなね。だから、今は「生活のロングライフ性をみんなで盛り上げた上で、商品をくっつけていく」という時代なんじゃないかなぁ、と僕は思っていて。

ナガオカ:だから、最近は、ひとつの商品に対して5つのことをくっつけて売っていくというやり方に変えていきたいと思っています。

―― 5つのこと、ですか?

ナガオカ:そう。まだネーミングは決めていないんだけれど(笑)。ひとつ目は、モノが生まれたところに行く、“観光”に結びつくこと。ふたつ目は、そのモノを、“四季”の中でどう楽しんでいけばいいのかを提案すること。3つ目は、“修理”やメンテナンスまで丁寧に提示すること。4つ目が、その商品を取り巻く“仲間”つまりコミュニティを作ること。5つ目が、“産業”について学ぶこと。

わかんないけどね(笑)。そういう方向に変えていきたいと思ってる。

モノ作りとスタッフの関係性さえ健全であれば

―― 消費者側のモノ選びの基準が変わると、「売り手側」の意識も変わっていくのでしょうか?

ナガオカ:うん、変わるのが自然じゃないかな。でも、時代が変わったとしても、うちが一番大切にしたいのは「スタッフの学ぶ機会」を確保すること。重要なのは、「スタッフの中にモノづくりへの情熱や愛情が芽生えるかどうか」だから。

なんでかっていうと、「働く」って結局、スタッフの貴重な時間を使ってもらっているということなのでね。ただ仕事をするんじゃなくて、いかにその会社で成長できるかってところが見えないと、より成長できる会社に移りたくなって辞めていなくなっちゃう。

だからうちでは、産地の方々を招いて、スタッフ向けの勉強会を本当によくやる。お客さんのために学ぼうね、というと表向き一生懸命やるような気もするけど、自分が楽しくないと長くは続かない。自分が感動したらやっぱりたくさん伝えたくなるし、自然とお店に友だちや知り合いを連れてきたくなるし、紹介もしたくなる。

スタッフとモノづくりとの関係性さえ健全であれば、あとは何かしら続くんじゃないかなと。それが回り回って、最終的にお客さんのためになるというか。

黒江:うち、本当にスタッフ向けの勉強会が多いんですよ。そのおかげで、今はモノを取り巻く環境を、昔よりもずっと体系的に理解できるようになりました。

黒江:とはいえ、今だから言えますが、入社当時は、D&D で売っているものは欲しくても高いし、正直使い方がわからないモノが混じっているような状態でした(笑)。漆のお椀もなければ器もないし、おひつも持っていない。

でも、働き続けるうちに、「あ~、おひつが必要だな……!」と思える瞬間がきたんですよ。「私、ついにおひつが必要なところまで来たんだ……!」という感動ポイントを迎えた。

―― ……「おひつが必要」ですか!?(筆者、これまで人生で体験したことがない感情で理解が浅い)。

黒江:はい(笑)。必要だと思えた理由は、やっぱりナガオカがいうように、社内のスタッフを集める勉強会や、お客様と一緒に学ぶ機会とか、フォーラムみたいな何十人の前での対談を聞くとか。いろんな種類の「モノや産地について」を学べる機会を得られたからだと思います。

別におひつが何かのターニングポイントなわけではないのですが……。おひつが必要な生活にたどり着くと、おひつを取り巻く木工全般の知識について興味を持つようになります。どうして使う前に水を張るのか、銅の箍(タガ)はどんな影響を及ぼしているのか、もし少し壊れてしまったらどう修復すべきなのか、とか。

そういうのがわかると楽しいし、もっと勉強したくなる。木工関連でいうと、この間は、ついに木桶仕込みの醤油を、木桶からつくっているつくり手さんを訪ねて、香川県・小豆島まで、プライベートで行っちゃいました(笑)。

ナガオカ:うん。スタッフ自身がそうやって視点を深めていくと、いつか産業にコミットしたくなるかもしれない。一番面白いのは、じつは「産業に目を向ける」ことなんだよね。だって、D&D が取り扱っている生活用品とかは、日本の産業が支えているわけだから。

黒江:日本の産業って、すごく興味深い。大人になって、初めて勉強ってこういうことなんだ! ってわかったというか。最近は、もう一度学校に行きたいなって。歴史のこととか、もっと勉強しておけばよかった……!

―― (わかります)。

二人三脚のモノ選び。「集まった風景」をオーケストラのように見せ たい

―― 黒江さんが館長を務める「d47 MUSEUM」では、ロングライフデザインをテーマに47 都道府県の魅力や、若い世代のモノづくりを伝える展覧会を定期的に開催されています。d47 MUSEUM のモノ選びの基準についても教えていただけますか?

取材時に開催されていた展覧会のテーマは「LONG LIFE DESIGN 1 ~47都道府県の健やかなデザイン展~」。愛媛県からはイケウチの「オーガニック120」が選ばれた ※2019年3月現在、展示は終了(画像引用:D&D 公式サイト

黒江:47個のプロダクトを選ぶために、毎回300以上の候補を挙げています。昔はウェブで検索することもありましたが、今は地域ごとに頼れる方がたくさんいらっしゃるので、「これこれこういうものを探しているんだけど、知っていますか」と聞いて探すことの方が多いです。

―― 選ぶ基準は、どこに置くのでしょう。私ならどうするかを考えると、候補がありすぎて見当がつかず、途方に暮れてしまう気がします。

ナガオカ:うん。僕らは、1個1個のモノの良し悪しを決めているんじゃないんだよね。結局、ビジョンを示しているだけなので。「47個そろった時の見えてくる風景」を決めている。だから、最初の1個2個は、僕らもどうやって決めていいかわからないままスタートしています。10個くらい選定した時に、やっと「11個目は、じゃあこれかもな」と進む感じ。

―― なるほど。えっでも……そうだとすると最初の1個は本当に、一体どうやって決めるんですか?

ナガオカ:とにかく難しい(笑)。ある程度の方向性は、僕の中になんとなくぼやっとあるんですよ。今回だったら「健やかさ」。それに対して65%くらいの答えを持っていて、とにかく「こっちの方向にビジョンを示したい」という気持ちはある。

でも具体的に何かは分かっていない。だから、黒江が実際に選んだプロダクトを見て、「いいね」とか「うーん」とか、さらにしばらく「うーーん」とかやって頑張って決めていく。

黒江:その過程で、「いい加減にしてください」って言うこともあるし(笑)。

ナガオカ:それでも「わかりません」と答える時もある(笑)。

黒江:でも、どうしてナガオカが「わかりません」と言っているのか、その意味は理解できるんですよね。ナガオカの中に「健やかさ」に対して何個か大切にしたい判断基準はあるんだけど、プロダクトを探し始めた時は、どこにその軸を置いていいかまだわかっていない状態。「今は判断がつきません」という意味かなと。

それで、私も色々と試行錯誤を重ねて、いくつかのプロダクトを提出します。すると「これでいいですよ」とか「やっぱり違う」となったりする。

―― プロダクト選びの、1,000本ノックみたいですね……。

黒江:しかも、20個まで決めた時、ナガオカが最初の3個くらいを外したりすることもあるんですよ。それは多分、全体感が見えてきた時点で、「やっぱりこれ違うわ」って感じる時で。

ナガオカ:繰り返すけど、僕もわかんないでやってるから(笑)。

黒江:大変だぁ! ってなる瞬間がありますね(笑)。

一同:(笑)。

―― そこまでの労力と時間をかけて、d47 MUSEUMを通じて伝えたいことって、何になるんですか?

ナガオカ:難しいなぁ。うーん……。自分はわりとぼやっとしてますね。今回のはだから、「健やかさ」。それに尽きますね。

「健やかさ」って人それぞれのイメージがあると思うし、「健やかさ」ってこうですよっていうのを展示の解説に書くつもりもないし。でも、ただプロダクトを見たら明らかに、社会は量産型から非量産型になって、半手仕事に……。工芸品的というか、そういうモノづくりの時代になっているということがわかると思うんですよね。

量産されているはずなのに、どうしてだかちょっと「半手仕事のあたたかさを感じる」、みたいな。今回選んだ47個のプロダクトの中に、大量生産のものってない。僕たちはそういうものの中に「健やかさ」を感じているし、「健やかさ」っていう言葉は投げるけど、あとは会場に並んでいるものを見て、感じますか?っていう。

『LONG LIFE DESIGN 1』d47 MUSEUM 企画展「47都道府県の健やかなデザイン」の公式書籍

―― (うんうん)。

ナガオカ:感じ始めたら、しめたもので。「健やかさ」のスイッチが入ると、「なんかそうかもしれない」というような、僕がはっきり言えないことを、見た人もはっきりとはわからないけど感じ始めるかもしれない。プロダクトに対して、「健やかかどうか」という「モノの見方」が、見た人にひとつ増える。

ナガオカ:じつは、それがすごく大切で。これは、こういうものです、次はこうなんです、って言い切っちゃうと、つまんないんですよ。気が付いて、そういう風にも見えるかも、と思えるのが重要。

だから、目的って聞かれたら難しいんだけど、すごくぼやっとしているんです。d47 MUSEUM の解説がすごく少ないのも、その理由。テキストで解説すればするほど、テキストを読んじゃうので。それは自分の目じゃなくて人の目で見ているということ。だとしたら、やっぱり「健やかさです、さあどうぞ」というのが、ね。

D&DEPARTMENTが変わらないために、少しずつ変わっていく

黒江:でも、さっきの47個のプロダクト選定の際に、前に選んだものを頑張って除外していくというのは、D&Dの店舗でも同じことが言えるかもしれないですね。

ナガオカ:そうだね。D&D は現在、直営店3 店舗のほかはすべてフランチャイズ。本部、つまり僕らが決めたものをフランチャイズの店舗がよしとして仕入れてくれたのに、5年くらい経ったら僕らの方から「やっぱり取り扱いをやめます」と伝えるという事態は、往々にしてある。

当然だけどすっごく怒られます。でも、そういうのは勇気を振り絞って、言う。だって言わないと、大企業病みたいにズルズルいっちゃう。だから「ごめんね違うわ」って。

黒江:今だったら、たとえば柳宗理のカトラリーなどでしょうか?

ナガオカ:うん。「えぇー、柳宗理あんなに推してたのに」みたいな気持ちになるよね、きっと。

―― たとえばなぜそれは、違うと思ったんですか?

ナガオカ:正確に言うと、「違う」という言葉じゃない。もっと良い商品が出て来た時に、どちらを取り扱うか悩みます。

ナガオカ:カトラリーで最近注目しているのは、新潟県燕市の「燕振興工業株式会社」の「SUNAO(スナオ)」シリーズ。「graf(グラフ)」という集団がデザインしたものです。見た時に、こっちの方が柳宗理のそれよりも、数倍いいなと思った。まぁ、graf 自体が柳宗理を崇拝して作っているので、当たり前かもしれませんが。

SUNAO シリーズ

ナガオカ:もう、この進化を世の中が認めないと、って。世の中って新しい方に動いていくので、そこを避けたら、やっぱりだめ。勇気を振り絞って新しいものを褒めて認めないと、ただの単純な民芸店みたいになっちゃうから。

―― 「一度決めたことを見直して、勇気を出してアップデートしていく」。D&DがD&Dでい続けるために、必要なこと、なのですね。

イケメンだから付き合い続けていけるわけじゃない

この話の最後に、筆者は聞きました。「じゃあ、当然ですが、もしかしたらイケウチのタオルが、D&Dのラインナップから外れる日が来ることもあるかもしれないのですね」と。そうしたらナガオカさんは、こう言いました。

「うん、可能性としてはあると思うんですよ、イケウチさんよりもいいタオルが出てくるって(笑)。

でも、やっぱりそもそもの前提として、タオルとして無敵だと思っています。こんなに長く、質感の変わらないタオルはない。その上で、さらにはやっぱりイケウチとは一緒に成長していきたいとか、イケウチのブランド成長と向き合って、生きていきたいなという想いがある」と。

そして続けて、黒江さんもこう答えてくださいました。

「イケウチさんとは、以前テキスタイル展に参加いただいた際に、密にやりとりをさせていただいて以来のお付き合い。先日、木村石鹸さんの展示に出ていただいた時に、イケウチさんはその企画の出展者ではなかったのに、勉強会を一緒にやってくださった。この間も、タオルの話がメインじゃない勉強会でも、社長の阿部さんにご相談したらすぐに駆けつけて、補足知識を教えてくださいました。

商品が好きなことは大前提で、その上で信頼している。仲間として思ってくださっているんだなぁということが、伝わってくる……その関係性が、すごくありがたいと思っています。一緒に進んでいるんだという実感があります」と。

「モノの選び方も見方も色々あるけれど、人と一緒。ただイケメンだから、付き合い続けていけるわけでもないでしょう?」という問いを投げて、ナガオカさんは締めくくります。

ぽん、と湖に石を放って、ゆっくりと静かに波紋を広げていくような印象を得た、今回のインタビュー。世の中が変わっていく中で、私たちを取り巻くモノの存在意義もまた変わり、選び方も、売り方も変わってきました。「モノの所有」への価値観が変わり、たとえば「シェアリング」という概念が浸透してきたのも、そのひとつの証明だと思います。

その中で、モノに真摯に向き合い続けるD&D は、きっとモノに対する意識の底上げの助けをしてくれると存在なのだと、筆者は思います。

……そして、じつはこの記事には続きがあります。後編のテーマは「D&D の新しい取り組みである、クラウドファンディングへの挑戦と、ロングライフデザイン研究員」について。もう少しナガオカさんたちのお話をうかがいましょう。そちらもぜひ、お楽しみに。

D&DEPARTMENT
執筆:伊佐 知美/撮影:木村 雄司/編集:藤村 能光

WRITER

ライター / フォトグラファー
1986年新潟県生まれ。横浜市立大学卒。三井住友VISAカード、講談社勤務を経てWaseiに入社。どうしても書き仕事がしたくて、1本500円の兼業ライターからキャリアを開始。現在は世界各国、日本全国を旅しながら暮らしています。とにかく旅と写真と文章が好き。

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