イケウチな人たち。

by IKEUCHI ORGANIC

好きな人たちと考える、これからの豊かさ

イケウチな人たち。について

個としてのつながりを大切にしたい。明るく、軽やかに、柔らかく。

- 「deleteC」中島ナオ・小国士朗 -

IKEUCHI ORGANICの表参道ストアに、そのふたりが訪れたのは、2019年3月のことでした。

「『COTTON NOUVEAU(コットンヌーボー)』の、Cを消したいんです。」

IKEUCHI ORGANICが毎年作っている、「コットンヌーボー」という商品。タオルの素材であるコットンは天然の素材で、毎年収穫されるコットンには品質差があります。今までデメリットとされていましたが、これを逆に「コットンの個性」と捉え、毎年の違いを製品に反映させて愉しむことを提案した、毎年期間限定で発売される人気の商品です。

その「コットンヌーボー」の「C」を消して、「OTTON NOUVEAU(オットンヌーボー)」にしたい──。

これを読んで、ピンと来た方も、そうでない方もいらっしゃるかもしれません。

そう、「そのふたり」とは、NPO法人deleteCの代表理事・中島ナオさんと小国士郎さん。deleteCとは、「C」のつく商標名の中から「C」を消して、その商品の売り上げの一部を、がんの治療研究のために寄付をする取り組みです。

上記画像2点、deleteC公式サイトより引用

“がんは「いつかなくなる病気」だと言われています。ならば、その「いつか」を待つだけでなく、1日でも早く手繰り寄せたい。1日でも早く歩み寄りたい。”

中島さんは6年前、31歳のときにがんが発覚し、現在は「一番進行している」と言われているステージ4の状態。当事者でもある中島さんが抱える、「がんを治せる病気にしたい」という思いが、このプロジェクトの最初の灯火でした。

小国さんは、2018年までNHKに在籍し、SNS向けの動画配信サービス「NHK1.5チャンネル」やスマホアプリ「プロフェッショナル 私の流儀」を企画。「番組を作らないプロデューサー」として活躍するかたわら、認知症の方々がスタッフを務める「注文をまちがえる料理店」などを手がけてきたプロデューサー。現在は独立し、社会の中に潜む「遠くにある課題」を身近に映し出すような企画を多く作られています。

そんなふたりの出会いからこのプロジェクトは動き出し、2019年2月4日の発足から、ちょうど1年。これまでに、deleteCの取り組みには50社以上の企業・団体が賛同しています。

その中には、サントリーの「C.C.レモン」、漫画の『キャプテン翼』など、誰もが一度は聞いたことがあるであろう商品やキャラクターも含まれていて、勢いは止まることを知りません。

上記画像deleteC公式サイトより引用

ふたりの熱い思いを受け、IKEUCHI ORGANIC代表の池内は「やろう」とすぐに賛同。実際にふたりと池内が会ってから「オットンヌーボー」が完成するまでの時間は、1週間という驚異の短さでした。

そして、小国さんと中島さんにIKEUCHI ORGANICを紹介したのは、以前「イケウチな人たち。」にも登場していただいた、小杉湯の平松佑介さんだったと言うのです。

このつながりや、物事が進むスピード感の裏側には、「イケウチな人たち」に共通する何かが隠されているのかもしれない──。そんな思いも胸に秘めながら、中島さんと小国さんに、deleteCを発足するまでのこと、イケウチとの関わり、そしてこれからのことをお伺いしました。

「がんの描かれ方」に、ずっと違和感を持っていた

── 今日は「deleteC」について、発足に至るまでのこと、プロジェクトを進める上で大切にしている姿勢・思いの部分などを伺わせてください。

まず、おふたりの出会いについて教えていただけますか?

中島:小国さんとの出会いは3年半ほど前、小国さんがスピーカーを務めていた20人くらいのこぢんまりとした勉強会に、友人の誘いで参加したことです。

そのとき私はがんを患ってから何年か経っていて、ぼんやりと自分の頭の中に「がんをデザインしたい」というキーワードがありました。

それをこれからどうしていったらいいんだろうと考えていた時期で、小国さんにお話を聞いてほしいと思い、勉強会のあとに連絡をして。はじめてお会いしたときに、その想いが溢れ4時間も話を聞いてもらったんです。

── よ、4時間……!?

小国:本当に、圧の強い女性だなと思いました(笑)。やりたいことがマグマのように噴き出ている人だなと。

中島:それから数ヶ月に1回くらいの頻度で、お会いしたり、メールを送ったりして、都度私がやりたいと思っていることについて相談に乗ってもらっていたんです。

―― 「がんをデザインしたい」とは、具体的にどういうことですか?

中島:自分自身ががんを患ってから、「がんのメディアでの描かれ方」にすごく疑問を持つようになりました。取材していただく機会があっても、いち個人ではなく「がん患者」として扱われたり、型に入れられていることを感じていて。

それと、今のがんの描かれ方は、「白か黒」がすごく多いなと思っています。

―― 白か黒、ですか。

中島:白というのは「がんが消えた」「克服した」など、いわゆる「闘病生活に打ち勝って治った」というストーリー。黒というのは、「壮絶な闘病生活」とか「亡くなってしまった」などといった、死のそばにあるストーリー。そのどちらかみたいな極端な描かれ方が多くって。

―― たしかに報道で見るのは、白か黒、どちらかが多いように思います。

中島:でも、自分ががんになってみて、「ああ、がんという病気は白と黒だけではなく、本当は“グレー”なんだな」と思いました。治る、治らないだけではない。がんを抱えながらでも、その中にごく普通の生活がある。

みんな違う色で、グラデーションもあると思うんです。そして、その色は決して濁った色ということではなく、キラキラ輝くグレーもある。もっといろいろな描かれ方がされれば、それを知る機会が増えて、病気のイメージも変えられるかもしれない。そういう思いから、ずっと「がんをデザインしたい」という言葉が心の中にありました。

── なるほど。その思いが、deleteCが生まれる最初のきっかけだったんですね。

中島:はい。そしてその思いと一緒に、「がんの治療研究を応援したい」という思いもずっと持っていました。

私は6年ほど前、31歳のときにがんを患っているのですが、早期発見ではなかったんです。そうなると、世の中にあるがんの啓蒙啓発の「早期発見・早期治療」「検診に行きましょう」というメッセージは、自分とは距離があるものでした。

「がん検診に行きましょう」というメッセージの先にいるのは、「がんではない人」ですよね。啓発の、がんではない人に対しての柱はすでにある。でも、「がんになった人に対しての柱」はまだないんです。

がんのグレーな部分、そこに人がいて生活があることを思ったら、「検診に行きましょう」というメッセージだけではなく、がんを患った先にある生活に向けての応援、「1日でも早くがんを治せる病気にしていきましょう」といったものがあってもいいんじゃないかと。

世の中に、「がんになった人に対しての柱」も必要なのではないかとずっと思っていたんです。

「すごく大変な事だけど、本当に真っ当だと思った」

── 小国さんは、そういった中島さんのお話を聞いているとき、どういうお気持ちだったんですか?

小国:基本、なんだか面倒な方だなと(笑)。

中島:ひどい!(笑)。

── (笑)。

小国:いや、本当にしつこいというか何というか……。ナオちゃんはすごく熱いから、長文のメッセージが、夜中の2時とかに送られてくるわけです。「寝たい」と思っても、すっげーのが送られてくるから。

中島:でも、毎晩とかではないんですよ! 数ヶ月に1回とか、半年に1回とか……。

小国:あたりまえだよ(笑)。

小国:だけど、なんて言うんだろう。すごく大変なことなんだけど、彼女が言ってることや実現したい世界は本当にピュアで、一切の異論がなく、共感したんです。

みんなきっと思っているんだけど、なんとなく塞いでいたり、言わずに我慢していたりすることを、ナオちゃんは全部言う。もちろん、それでも我慢してるところはあると思うけれど。

そういうところは「ああ、いいな」と純粋に思ったし、ちゃんと答えようと思ったんですよね。

だから、彼女が作りたいプロダクトや世界観の話をひたすらに聞いて。いわゆる、壁打ち相手だったと思います。

中島:また、良い返信をくださるので……。

小国:うるさいよ本当に(笑)。

2018年11月2日。転機の日が訪れた

中島:相談させていただきながらも、お互いに忙しくそれぞれ進めていることがあって、(小国さんは注文をまちがえる料理店、私はN HEAD WEAR)小国さんとは、しばらく会えない状態が続いていました。

小国:そうだね。

中島:そのあいだ、病気を患ってから出会った同病の方の死を経験したり、自分が出会える可能な限りの医師やがんに関することをしている方に自分の思いを話したりする中で、「やっぱり、がんの治療研究のために何かしたい」という思いがさらに強くなっていったんです。

そして2018年の11月2日、転機の日が訪れます。

── 転機の日?

中島:その日は、小国さんとひさしぶりに会う約束をしていました。そして小国さんと会う前日に、偶然、「MD Anderson Cancer Center」という、アメリカで研究しているがんの専門医師の上野先生とも会っていたんです。

それで小国さんに、「昨日、この方も応援すると言ってくれた」と、上野先生の名刺を見せたんですよ。

── 「Cancer」に赤い線が引いてありますね。……あ、この名刺が、もしかして……!

小国:そう。この名刺こそが、「deleteC」という仕組みを思いついたきっかけです。ナオちゃんから、「Cancer」に赤い線が引いてある名刺を見せられたときに、「これだ!」とひらめいたんです。

それまでは、「がん」というテーマ自体は身近だったんですが、「がんの治療研究」は僕にとっては遠いことでした。自分自身がやれることがあまりない。それは医者や製薬会社のやることで、国がお金を出すものだと。

でも、上野先生の名刺を見た瞬間に、いろいろなことが繋がりました。「商品からCを消して、それを買うと寄付になる仕組みを作ればいいんだ」と。それだったら、僕のような人でも自分ごととして参加することができる。そのときに、「がんの治療研究」という、一見遠い課題と僕のあいだの距離がなくなり、はじめて具体的にイメージできるようになったんです。

── そこから、具体的にdeleteCが進んでいったんですね。

小国:仕組みを思いついてしまえば、すぐにでも目標を決めたほうがいいと思い、2019年2月4日のワールドキャンサーデーを目標にしました。その時に、まずはコンセプトだけ世の中に言う。そのあとに仲間を集めていこうと決めました。

「くらいものをあかるく、おもいものをかるく、かたいものをやわらかく」

── 具体的に「deleteC」を進めていく上で、気をつけられていたことなどはありますか?

中島:あまり表には出していないのですが、大事にしているのは、「暗いものを明るく、重いものを軽く、かたいものを柔らかく」という姿勢です。

── いい言葉ですね。

小国:これはナオちゃんがふいに言った言葉で、本当に大事だなと思ったんです。ナオちゃんの「がんをデザインしたい」という思いを言葉にしたのが、これなんだなと。僕だけではなくて、チーム全員が「deleteCらしさってこういうことかもね」と腹落ちしました。

deleteCの目的はもちろん「みんなの力でがんを治せるようにする」なんですが、もっと大事にしなければいけないことは、「僕たちは何によって動くのか?」という行動指針。

さっき言った「メディアのがんの描き方」など、僕たちには変えていきたいものがあります。世の中への打ち出し方や、デザインなど、いろいろ迷うことありますが、そのときにはこの言葉が道しるべとなってくれていますね。

── この姿勢は、小国さんが「注文をまちがえる料理店」などの企画で大事にされていたことにも近いような気がします。

小国:近いですね。僕は井上ひさしさんの「難しいことをやさしく、やさしいことを深く、深いことを面白く」という言葉や、ほぼ日さんの「やさしく、つよく、おもしろく」という言葉がすごく好きで、それがコンテンツの本質だと思っていて。

見られ方として「がん」というテーマでやっている中で、眉間にしわを寄せて厳しくて重い言葉を出してしまったり、肩に力を入れすぎたり、拳を振り上げて動いたりするよりも、みんなで笑いながら動けた方がいいなと思う。その方が乗っかりやすいし、何より楽しいじゃないですか。

中島:これは、deleteCに限らず、私たちが人と接するとき、生活するとき、日常において大切にしたいと思っていることなのかもしれません。

IKEUCHI ORGANICとの出会い

── IKEUCHI ORGANICとの出会いは、小杉湯の平松さんからのご紹介だったんですよね。

小国:そうなんです。(平松)佑介くんが僕の友達で。以前、佑介くんの誘いで、小杉湯に入ったんです。

それでお風呂から出て渡されたのが、IKEUCHI ORGANICのタオルで。タオルを使ってみたら、ふわっふわで、「佑介くん、これすごいね」と言ったら、「IKEUCHI ORGANICっていうところの、オーガニックコットンのタオルだよ」と教えてもらいました。

それから時が流れてdeleteCを思いついて、小杉湯のまわりにはおもしろい人たちがたくさんいるから、佑介くんにも話しておこうと思って説明したら、ものすごく興奮してくれて、「池内さんを紹介したい」と言ってくれたんです。

「イケウチって、あのとき感動したタオルのところじゃん!」と自分の中でもつながって。それでセッティングしていただいて、2019年3月に、僕とナオちゃんと、この表参道ストアで池内代表とお話をしました。

イケウチとの出会いは、「絵空事」が現実になった瞬間だった

小国:イケウチさんに出会うまでは、deleteCはずっと「絵空事」だったんですよ。

── 絵空事、ですか?

小国:2月4日に立ち上げたのですが、そのときはコンセプトだけだったんです。まだ実際にCを消して販売していただける企業は見つかっていなかった。

だから立ち上げ段階で使っていた資料って、ほとんど妄想で。勝手にスターバックスのCを消したり、シャネルのCを消したりしていたんです(笑)。

でもその絵空事に、ちゃんと線を引いて、色を付けて、動き出せるようにしてくれる人が本当にいるんだということを初めて実感したのが、イケウチさんでした。

中島:実際に営業を重ねていく中で、断られ、難しさを感じていた時期だったので、太陽のような出会いで。

小国:「本当にC消してくれるんですか!?」って、驚きすぎて、引いたもん。

── (笑)。

小国:だって、大事な大事なブランドじゃないですか。それを軽やかに……それこそ、明るく軽やかに柔らかく、快諾してくれて。

中島:このタグの画像を送ってきてくれたときは、すぐにメンバーに送りました。「本当にやってくれるところがあったよ!」と。あの喜びは、一生忘れられないですね。

企業や肩書きを超えて「個」として会話ができる人たち

── deleteCに協賛している阪神の原口文仁選手とも、イケウチの紹介で知り合ったんですよね。平松さん、原口選手……いろんな方がイケウチを介して繋がっていて、そこには根底に流れているものが似ているような気もするのですが、どう思われますか?

中島:会ったときに、「個」として会話をしてくださる方々ばかりだなと、今あらためて思いました。

小国:そうですね。池内代表、阿部社長、広報の牟田口さん、平松さん、原口さん。それぞれ「個」と話している気がします。心を示してくれるし、受け取ってくれる。

中島:私にとっては、小国さんもそうですよ。私を「がん患者」として扱っていたら、きっとここまで長くはやりとりが続かなった。ちゃんと向き合ってくれる。そこはきっと共通する部分なのかな、と思います。

小国:「がんに対して何かやる」「社会貢献をしたくてやる」というわけではなく、見たい世界を、一緒に見たい人と、同じ目線で見る。それに対して自分たちができる表現を担っていく。対等なのかもしれません。

ビジネスにおいては、どうしても理屈が先に立ってしまうのですが、理由なんてどうでもよくて、「いいじゃん、良いことだしやろうぜ」みたいな感じのフェアネスが、きっとイケウチさんの周りにはあるんですよね。

中島:「個」としてお話ができた方たちのことって、より興味が湧いて好きになるし、自然とそこの商品のファンになります。イケウチさんのタオルもだし、それこそC.C.レモンも。

小国:愛着やばいよね(笑)。

中島:「個」のつながりの先には、愛にあふれる世界が広がっていて、本当に楽しいんです。

小国:個として話せること、明るく、軽く、柔らかいこと。もしかすると、それがイケウチな人の共通点のひとつなのかもしれませんね。

2月1日がまず1回目の着地点

── 最後に、deleteCの今後の展望を伺ってもよろしいでしょうか。

中島:実は、deleteCはまだ一周していないんですよ。

2月4日にまたワールドキャンサーデーが来るのですが、その前の2月1日に初めて私たちが医師、研究者の方たちに、集まったお金をお渡しします。そこがまずの目標なので、今はきちんと着地させることに向かってやっていきたいなと思っています。

そのサイクルがどんどん回って広がっていけば、応援の力は大きいものになっていく。「がんを治せる病気にしたい」という夢が実現するその日まで、続けていけるプロジェクトにしたいです。

── 小国さんはどうですか?

小国:deleteCの面白いところって、「この人が協賛しているの?」みたいな「いびつさ」にあると思うんです。原口選手の隣にIKEUCHI ORGANICがあって、その隣にC.C.レモンがあって、ラグビー選手がいて、ギャル社長・葉山潤奈さんがいて。

上記画像deleteC公式サイトより引用

── 協賛のラインナップを見たときは、びっくりしました(笑)。

小国:もうめちゃくちゃじゃないですか。でも本当は、それが自然なんだと思うんです。だって、ふたりに1人ががんになるわけで、関わらない人なんてほとんどいない。

逆に、それがめちゃくちゃに見えてること自体が、今まで変だったのかもしれませんよね。deleteCが、いろんな垣根を超えて、誰もが応援できるような場所になれたらいいなと心から思っています。

みんなの力でがんの治療の研究を進めていく、大応援団を作るのが僕たちの使命。だからそのために、明るく、軽く、柔らかに、これからも楽しくやっていきたいです。

deleteC
執筆:あかしゆか/撮影:木村 雄司/編集:藤村 能光

WRITER

1992年生まれ、京都出身、東京在住。 大学時代に本屋で働いた経験から、文章に関わる仕事がしたいと編集者を目指すように。現在は、ウェブや紙など媒体を問わず、編集者・ライターとして活動をしている。

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