イケウチな人たち。

by IKEUCHI ORGANIC

好きな人たちと考える、これからの豊かさ

イケウチな人たち。について

病院が「また来てね」と言える関係を、地域の人たちとつくりたい

-「ふくやま病院」理事長・譜久山剛 -

独りよがりでも、自己犠牲でもなく。周りの人の力になりながら、自らの理想を追いかける。

そんなリーダーを、今年の初夏、兵庫県明石市で『イケウチな人たち。』編集部は取材しました。

お話を伺ったのは、明石市にある「ふくやま病院」の理事長、譜久山剛(ふくやまつよし)さんです。

譜久山さんは、病院を経営されながら、主に消化器外科の分野で患者さんの診察もします。

それだけでなく、さまざまな角度から、「明石地域の人たち」と「ふくやま病院」が接点を持てる試みも実践している方でもあります。

たとえば、病院の中に図書室を設置したり、コミュニティスペースを使って外から人を呼び、ワークショップやイベントを開催したり。

ふくやま病院が3年前新築開業する際には、なんと地域の40団体にもヒアリングをして病院を設計しました。

これらの取り組みはすべてふくやま病院が掲げる目標、「また来てね。と言える病院」を実現するため。

そんな譜久山さん、じつはイケウチの直販店・京都ストアで定期開催されるイベントにも頻繁に足を運ばれる一面もあります。

イケウチは、7月に京都にて行われる祇園祭で出店をしていますが、譜久山さんは今年、出店のボランティアスタッフもしてくださいました。

また、ふくやま病院が新設開業する際には、イケウチとコラボしたタオルハンカチも作られたり、お中元にイケウチのタオルを送られたりもしているのだそう。

「地域や社会全体の幸福といった、広い視点で経営を考える」。

譜久山さんがイケウチと関わるのは、こんな部分でイケウチとふくやま病院には重なる部分があると感じるから。

一見、病院の枠組みを超える取り組みの数々を実践する、譜久山さん。

それらは最終的に、譜久山さんの「地域の人たちにローコストで長く健康でいて欲しい」想いに紐づく取り組みでした。

それはたとえば、「病院がどのくらい利益を上げるか」などといった目先の目標とは正反対の、とても長い視点での──そして、ひと筋縄では達成できない目標です。

けれども、

「これだけやったら大丈夫は無いんです」「まだまだ長い坂の途中です」

取材中なんども譜久山さんが漏らした言葉の奥に、ふくやま病院が追いかける理想の高さと、その代え難さを感じたのです。

地域住民とワークショップを重ね、生まれた「ふくやま病院」

兵庫県明石市・西新町駅に隣接する、「ふくやま病院」。

2016年の11月に新築開業された、4階建て100床余りの中規模病院です。

一般病棟の他に緩和ケア病棟を院内に積極的に導入したり、患者さんが「家がいちばん」と言えるための在宅ケアにも力を入れています。

ふくやま病院では、「食べる・育てる」をキーワードに、園芸療法のプログラムも取り組める中庭と屋上の緑化も行われている

2階から4階までは全てのフロアに本棚で壁がつくられた図書室がある。図書室とキッチンを持つことは緩和ケアの基準と定められているのだそう

患者さんのご家族の控え室用に畳の部屋もある。くつろいで足を伸ばすことができる畳の部屋は、日中使用することも、宿泊することもできる

患者さんはもちろんのこと、ご家族をはじめとする身近な人たちにとっても、心身ともに健康的な医療を提供することを心がけています。

ふくやま病院の外観は、「ここが病院?」と一瞬疑ってしまうような、緑に囲まれたスタイリッシュなデザイン。

院内も天井が高く、大きな窓から太陽の光が差し込んでくる、とても気持ちのいい空間になっています。

待合室には幅約10メートル、高さ約2.5メートルの誰でも自由に立ち寄れる「図書コーナー」があり、地域住民の方々が気軽に利用されているそう。また、2階にある「コミュニティホール」では、イベントや展示、ワークショップなどがジャンルレスに行われています。

地域の人たちに向け、様々な角度から接点を持とうとするふくやま病院。その姿勢は、病院を新しい場所へ移し、新築開業する際にも現れていました。

「旧来の譜久山病院から、この場所に新しくふくやま病院を開業する際に、『どんな病院がほしいですか?』というのを地域の人たちに聞き取りしたんです。

自治会の会長さんを訪ねて、会長さんから街の人たちに声をかけていただき、集まった人たちでグループディスカッションをしてもらいました。

『新しくできる病院に何をプラスして、ここに来る時にどんな病院になっていて欲しいか?』ということを、周辺の3つの自治会にヒアリングしたんです。

あとは街のNPOの人たちや、このエリア近くの看護大学の人たち、果ては折り紙サークルの人たちにもヒアリングをして。合計、40団体ですかね。

いろんな人たちのお話を聞いて、新しい病院づくりに活かしました」

地域の人たちへのヒアリングを通して、譜久山さんが「盲点でした」と語ってくれたのは、自然災害への不安の声が多く聞こえたこと。

じつは、明石川がすぐ近くを流れるふくやま病院周辺は、地震や津波が起きたとき、明石市の中でハザードマップがいちばん赤くなるエリア。砂が積もってできたエリアであるため地盤が脆く、また川自体の氾濫リスクもある。

地域住民たちから寄せられたのは「病院は、地震が起きた時の避難所になれるか」という声でした。そんな声にふくやま病院は、耐震構造を取り入れ、1階と2階の天井を高く設計する形で応えたのです。

譜久山さんのお話から、今のふくやま病院は、地域の人たちと一緒につくり上げられた病院なのだと、うかがい知ることができました。

「また来てね」と言える病院になりたい

ふくやま病院が、地域の人たちを強く意識するのはどうしてだろう? その理由を、譜久山さんはこのように語ります。

「そもそも僕たちは、日本全国から患者さんが来るような病院じゃありません。

たとえば心臓や脳に関して『うちに任せて』というような病院ではないんですよね。どちらかというとジェネラルな病院で、幅広い症状を診るけれど、専門的な治療が必要な場合は他の病院に紹介したり、周りの医療機関と連携などして力を出せる病院なんです。

つまり、提供できる医療に、何か特化した強みはないということ。

だからこそ根幹に、『地域の役に立ってなんぼ』という考えがあります」

そんなふくやま病院が目指すのは、「また来てね」と言える病院。

「この『また来てね』という言葉、なかなか医療業界では不評なんですよ」と笑う譜久山さん。けれどもこの「また来てね」にも、ふくやま病院の地域の役に立ちたい想いが込められていました。

「『また来てね』というのは、病院を移転する際に『自分たちが何を大切にしてきたか。どんな病院になりたいか』院内のスタッフと話し合った際に出て来た言葉でした。

やっぱり僕たちは、地域の人たちにとって近しい存在でありたいんです。病院や怪我をしている人だけじゃなく、健康な人もいつでも、何回でもここに来てほしいし、そういう場所になりたい。

ふくやま病院が、人とのつながりや安心感を感じられる街のひとつのコミュニティの場になれたら、本当に病院が必要なときに抵抗なく来院してもらえると思うから。

だからここに来る理由はなんでもよくて。よく、定年退職したおじいちゃんが急に時間ができて図書館にばかり行くようなことがありますけど、そういったときのもうひとつの選択肢くらいになれたらいいな、と。

そういう意味での『また来てね』と言える病院づくりを目指しています」

譜久山さんの言葉に応えるように、ふくやま病院には診察以外にも、ただ血圧を測りにくる人や病院のロータリーで自転車の練習をする子ども、トイレを借りに来たりする人など、いろんな地域の人たちが訪れます。

地域の人たちが、ローコストで長期的に健康であるために

そんな譜久山さんに、イケウチのイベント参加やふくやま病院とのコラボタオルをつくるなど、イケウチと幅広く関わられる理由を伺ってみました。

「イケウチさんの好きなところは、企業としてどれくらい売り上げを上げるなどといった、目先の利益にこだわらないところ。個人的には、あまりそういうことを考えて経営されているようには見えないんです。

たとえば、イケウチの京都ストア。よくイベントで行くんですけど、野菜の話とか魚の話とか……自社のプロダクトと全然関係ない話をしていることがほとんどじゃないでしょうか。

自分の商品をいかに売るかよりも、『京都の人たちと心地よい関係性を築き、愛され続けていくには?』というふうな、広く長い視点で経営を考えられているように感じています。

そして僕たちも、常々そうありたいと思うのです」

ふくやま病院は、国や自治体が運営する公的病院ではなく、法人や個人が運営する民間病院です。

イケウチとふくやま病院。取り組みも提供するものも違うけれど、どちらも地域のいち民間組織であることは共通しています。

「僕らは私企業だけれど、病院を運営するためのお金の7割は、保険や税金でまかなっているんです。病院の収入は、患者さんの自己負担で3割、お年寄りなら1割な世の中だから。

保険や税金を払ってくれているのは、地域社会やこの国の人たち。

だからこそ、医療財源はだいじに使っていかないといけないと考えています。

目の前の人の負担が少ないからと言って、自分たちの利益だけを追求するような医療をやっちゃいけない。とにかく高い検査を入れたりだとか、だいじなものでもないものにお金を使ったりとかしてしまうと、医療を受けている側も何かが荒むんじゃないかと思うんです。

医療は個人のものではないし、ある程度みんなのもの。できればもっと、本当に必要な医療に使われていくべきだと思っています。

そのためにふくやま病院としては、地域の人たちがローコストで健康な状態を長く続けられるような、質のいい医療を提供したいと考えているんです」

病院がなくなっても、みんなが健康であれる世の中がいい

地域の人たちがローコストで長く健康であるために。

譜久山さんは、まず地域の人たち自身が、ある程度自分で健康を維持できるようになることが大切だと考えています。

「ふくやま病院では、リハビリテーション科が毎月『健康教室』を開催しています。

病院に行かなくても済むような、風邪であったり軽い怪我のものに対して、『こうやって処置できるよ』と伝えることは、積極的に取り組んでいます。

公的な医療に負担をかけなくても生活が回っていくようなシステムを、つくっていきたいんです。今って、本当に必要な医療をやっていく財源が減ってきているので。

ベーシックにできることをお伝えした上で、本当に病院にかからないといけないときには、僕たちが対応するし、『そこで質の高い医療が提供できるようにしたいね』というのはスタッフともよく話していますね」

健康教室の様子(写真:譜久山さん提供)

それでも譜久山さんは、病院として「これだけやれば大丈夫は無い」と言います。

たとえば健康を軸にしたワークショップを開いても、来てくれるのはすでに健康意識の高い人がほとんど。

どうやったら普段健康を意識していない人たちに届けられるのか──。

今はそんなことを考えておられるのだそう。

「最終的には、僕たちみたいな私企業の病院がなくなっても、みんなが健康でいられる世の中になったらいいなと思っています。自分たちがそこまで持っていけるのか、わからないけれど」

譜久山さんはこんな言葉を、取材の最後に残しました。

病院がなくなっても、みんなが健康でいられる世の中。

それを医者であり、病院の理事長である譜久山さんが言葉にしたことで、譜久山さんが病院の利益ではなく、地域社会の発展と健康を誰よりも願う人なのだと感じずにはいられませんでした。

インタビュー中もひっきりなしに鳴り続ける電話に対応しながら、我々イケウチな人たち編集部にも丁寧に受け答えしてくれた譜久山さん。

そんな譜久山さんの姿は、地域の人たちに広く温かく手を広げるふくやま病院の姿と、そっくり重なっていました。

執筆:小山内 彩希/撮影:木村 雄司/編集:藤村 能光

WRITER

1995年秋田県能代市生まれ。編集者・ライター。大学3年次から株式会社Waseiにインターンとして所属し、大学卒業とともに入社。「灯台もと暮らし編集部」。あたらしい形の創作チーム「創作メルティングポッド」や女子にとって野球をもっとおもしろくする「NFB(日本女子野球機構)」を運営。

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