イケウチな人たち。

by IKEUCHI ORGANIC

好きな人たちと考える、これからの豊かさ

イケウチな人たち。について

地域に愛されるものをつくり、つながりをつくっていく

- 「箕面ビール」社長兼工場長 大下香緒里 -

愛されるものをつくる秘訣ってなんでしょう。

たとえば、周囲を巻き込む行動力──。

「箕面ビール」は大阪府箕面(みのお)市にある、ローカルビールの醸造所。

もともとは地域の酒屋さんだったのですが、今は亡き前社長・大下正司さんが1996年にビール醸造を開始。今回お話を聞いたのは、創業当初からビールの醸造に関わり、2012年に跡を継いだ、正司さんの長女・香緒里さん。

現在は箕面の猿山になぞらえてラベルに猿が描かれていたり、特産品の柚子を用いたフルーツビールを造ったりと、「ローカルで愛されるビール造り」に力を注いでいます。

取材場所だった2015年にオープンした直営店「MINOH BEER WAREHOUSE」も、そんな地元への愛情のひとつの表れ。ここで開かれるイベントなどを通して、積極的にお客さまとの交流を重ねています。

箕面周辺や大阪市内のデザイナーさんたちと一緒に、ビールをモチーフにした「Tシャツ展」を開催したり、「箕面ビール感謝祭」に地域の仲間たちが協力してくれたり。同業であるビールメーカーが有志で「マサジビールプロジェクト」という名でオリジナルビールを醸造してくれたり。同業者や地域の人たちに愛されている箕面ビール。

香緒里さんは「経営とは何か、いまだによくわからない。だからみんなに助けてもらっている」と語ってくれました。スタッフ、同じビール業界の人々、そしてお客さま……距離感は違えど、支え合あって、“みんなで”ビール造りをしていく姿勢。

周囲を巻き込み、愛されるものをつくっていく考え方と、亡き父である前社長とIKEUCHI ORGANIC代表・池内計司の意外な共通点について、聞いてきました。

動いていないと、気が済まない人たち

── いきなりなんですけど。お父さんが池内代表と同世代なんですよね。

大下:そうなんです。同世代なんです(生年月日も全く一緒であることが取材時に判明しました)。

── へえ! すごい偶然。性格とかも似ていますか?

大下:同じ時代の方なので似ているところ、あると思います(笑)。うちの父はビールを造るとき、試算を出すのではなく「とにかくやる!」という行動力のある人でした。とりあえず動いていないと気が済まない、っていうパワーに満ち溢れた人。

池内さんも「風力発電100%で環境負荷を抑えてタオルをつくる」とか、大変なこだわりを実現されていますよね。そういう行動力があるからこそ、周りの人を巻き込んで何かを達成できるんだろうなと思います。

── 池内代表は経営者でありながら「ものづくり」が好きな人で、その点でも似ているのかなと想像していました。

大下:そこはちょっと違っていて。父はビールを造らなくて、小売業からスタートした経営者なんです。お客様が求める商品、自分たちが美味しいと思う商品を形にして販売する点は似ているかもしれませんが。

「おいしい」って言ってもらえることが何よりうれしい

── もともとは、酒屋さんだったんですよね。

大下:酒屋といってもお酒だけを取り扱っていたわけではなくて。生活のものをなんでも取り扱う「町の三河屋さん」みたいな感じでした。

── 今で言うコンビニみたいな。

大下:そうそう。お酒に限らず、醤油とかお餅とかオムツとか、いろんなものを売っていました。変わっていたのは、自分たちのつながりを生かして、お客さまと業者さんをつなぐ商談の場としての役割も担っていたこと。

直接お客さまへ売るからこそ、コミュニケーションが発生していたので、製造や販売関係なく、お客さまの声を重視できていました。今もその文化は、会社に残っていると思います。「とにかく喜んでもらうことが商売」というのが、父の考え方でした。

── ビール造りを始めたのは何かきっかけがあったのでしょうか。

大下:付加価値のある何かを売らないと、酒屋が生き残れない時代になったんです。酒屋が扱うアルコールの販売量の中では、圧倒的にビールの比率が高かった。でもその時代のビールは大手4社さんのビールのみ。ディスカウントストアの進出で小売価格が激戦の時代で、酒屋のビールの利益は年々下がる一方でした。

そんな中、1994年にビール醸造の規制が緩和されたことをきっかけに、父の独断で、1997年からビール造りをすることになりました。

大下:ビール造りを始めた頃は、地ビールブームと言われた時代ですごく忙しかったです。製造もですが特に大変だったのは、酒販店さんや飲食店さんへの販売。現在ボトルを扱ってもらっている焼き鳥屋さんやお寿司屋さんには、当時、父が直接セールスに行っていました。ろ過、熱処理をしていない私たちのビールは賞味期限や冷蔵方法など、管理状況で品質が変わるので、現場の方々につくり手である自分たちが伝えていくのも大事な仕事でした。

その後、紆余曲折ありクラフトビール全体が下火で苦しい時期も続きましたが、2009年にイギリスで開催された「ワールド ビア アワード」という海外の世界ビールコンペティションに初めて出品し、スタウト(ビールスタイルの一種)が金賞を受賞することができました。クラフトビールの本場イギリスで受賞したことは、大変うれしかったですし、私たちにとってとても自信になりました。

それから9年連続で世界ビールコンペティションで受賞し、内8度金賞をいただいています。賞を獲るためにものづくりをしているわけではないのですが、自分たちが思う「美味しいビール」が客観的に評価されることは、ひとつの指標になり勉強にもなります。またビール造りは皆さんが思う以上にハードな力仕事で、地味な作業がほとんどです。スタッフたちのモチベーションにもつながるので毎回チャレンジしています。

そして私たちは味に妥協したくなくて、「おいしさを伝えていくこと」を大切にしています。やっぱりお客さまから「おいしい」って言ってもらえることが、すごくうれしいですから。私たちは、100人中100人から、おいしいと言ってもらえる味を目指してつくっています。

イベントで直接感想をいただける機会があると、すごくドキドキします。時期によって麦やホップ、農産物ですから年によっても変わるので、ビールの味にも影響します。「どんなふうに言ってもらえるんだろう?」って、デートじゃないですけど、そんな感じ。毎回不安もあるんです。だから、基本的には工場にいたほうが落ち着きます(笑)。

肩書きは意識しない。みんなでやる

── 全国各地からお客様が集まる大きなイベントがあるとお聞きしました。

大下: 「箕面ビール感謝祭」というイベントを毎年6月に開催しています。こちらもみんなでつくり上げているもので、お客さまとのふれあいができる場、箕面に来てもらえるきっかけとして、大切にしています。

箕面ビール感謝祭は、地元はもちろん、全国各地、海外からのお客さまも来場されます。2日間で4,000〜5,000人ものお客さまに、箕面にお越しいただいています。年々大きな規模になっていますが、外部の方へお願いするのではなく、地元自治会さんにご協力いただき、自分たちで企画から実行まで手がけています。

イベントでは、普段、箕面ビールをお取り扱いいただいている飲食店さんに出店いただいたり、ワークショップ、音楽ライブやステージパフォーマンスもあって、毎年お客さま同士が交流するイベントにもなっています。

13年前から大阪市内に「BEER BELLY」という直営店を出していて、その周辺には、デザイン関係や出版関係の事務所が多くあるんですが、そこに勤めてらっしゃるデザイナーさんたちが、うちのビールを気に入ってくれて、「Tシャツとかつくったら? デザインするわ」って言ってくれて。毎年、ビールをモチーフにしたTシャツをデザイナーさんだけでなく、スタッフや関係者も個々で作り「Tシャツ展」を店で開催しています。その流れで箕面ビール感謝祭でもブースを作り盛り上げてくれています。

やっぱり、ローカルで愛されてこそのローカルビールだと思うんです。そういったお客さまとのふれあいは、大事にしていきたい。

IKEUCHI ORGANICとは、コラボタオルをつくって販売している

── 愛されてこそと言えば、他県のクラフトビールメーカーと共同で、お父さんを偲んだビールプロジェクトがあるとお聞きしました。

大下:マサジビールプロジェクト」ですね。父の命日に合わせて、クラフトビール界を牽引するブルワーさんたちが、父をイメージしたオリジナルビールを製造してくださっています。父が6年前に急遽して、落ち込んでいる私たちを励まそうと、有志で企画して製造してくれました。それが6年経った今でも毎年造ってくださっています。

── ライバルであるはずのビールメーカー同士が、そうやってある人のことを想ってプロジェクトをやるって、すごいことだなと思いました。

大下:すごいことです。ビール業界は、情報交換がとても活発で横のつながりをとても大事にしています。

特に私たちは、家族で始めた製造はまったくの素人でスタートした会社で、困ったことやわからない事、不安も常にあります。だから同業者のネットワークはとても心強い。シーズン最盛期には毎週、全国のどこかしらでイベントが開催されますが、地方へもみんな参加します。業界全体でクラフトビールを盛り上げようという意識は共通しています。

お互いに助け合いながら楽しくやっています。

── そういうチーム感というか、“みんなでやっていく”姿勢は、社内でも同じなんでしょうか。

大下:そうですね。“みんなでやっている”という感じは、私の姉妹や家族はじめ、スタッフたちにも共通してあると思います。

私、会社を経営することがどんなものなのか、よくわからなくて。不安にもなります。だから同業者や異業種の先輩にも意見を聞きつつ、社内ではみんなで話し合うように心がけています。

仕事もみんなで取り組むことが大事だと思っていて、たとえ販売であっても、モノをつくっている延長線上にあると思っています。モノをつくっている人でなくても、販売、梱包、配送のスタッフがみんなでつくっている意識。その想いをお客さんにまで届けたいと思っています。

逆に製造に関わるスタッフにも、お客さまの声を聞いて製品作りにも生かしてもらいたいと思っています。全国のビールイベントは製造のスタッフが担当です。設営からビールのサービング、販売もすべて。普段はなかなかお客さまの声を聞く機会が少ない分、みんな意欲的に参加してくれていますね。

大阪市内への配送は、宅配業者さんにお願いするのではなく、自社配送で2名のスタッフが業務店、酒販店さんへ配送しています。直接お客さまとお話することで、ご意見をいただいたことを持ち帰って、社内にフィードバックしてくれたりして。できるだけ職種・肩書関係なく、スタッフ同士でコミュニケーションをとることを意識しています。

味を引き継ぎ、ビールの楽しさを広げていく

── すごく、周りの方を信頼されているように感じました。

大下:今は造ることに関しても、工場のブルワーにほとんど任せているんです。それは信頼があってこそ、できること。

ただし造り方を伝えるのは、信頼があっても難しいことです。なぜなら私たちのビールは、造り方や品質を数値化しているわけではなし、機械化しているわけでもないから。つまり、すべて経験で身につけてもらうしかないんです。

もちろん造る過程を見せたり、一緒に造ったりすることで、造り方を身につけてもらうことはできる。でもそれだけでは、品質を維持していくことはできません。必要なのは、出来上がったものが本当に「おいしい」と言えるものなのか、自分の舌で判断する力です。誰かに任せる以上、その力が身につくまで、育てなくてはならないんです。

── それはタオル含め、いろいろなものづくりに通じるお話かもしれませんね。

大下:タオルもビールもニッチな分野だけど、その分コアなファンが付いてくれる。だからこそ、「つくり手があの人じゃなくなったから、品質が落ちたんだ」と思わせてはいけない。

そのためには、手間をかけて引き継いでいくしかないと思っています。やっぱり長年の経験で積み上げたものは、伝えるのにも手間がかかりますから。ビールの品質は、経験とともに積み上げ続けていくものだと思います。それだけに大変なことも多いけど、楽しいこともたくさんあります。

ビールは奥が深い飲み物です。ビールスタイルは120種類以上ありますし、さらにオリジナルでいろんな味を生み出せる、その分、いろんな料理やいろんな場面に合うビールが誕生します。そういった変化をお客さまにも楽しんでもらいたいし、何より私たち自身も楽しんでいます。

── その楽しみは、今後も広がっていきそうでしょうか。

大下:広がっていくと思います。何より、もっといろんな人にビールを飲んでもらいたい。その気持ちを私たち自身も、楽しめたらなって思っています。

箕面ビール
箕面ビール感謝祭2019 ※2019年は6月15・16日に開催、詳細はリンク先参照。
執筆:くいしん/撮影:木村 雄司/編集:藤村 能光

WRITER

1985年、神奈川県小田原市生まれ。インタビュアー、編集者、ライター。レコードショップ店員、音楽雑誌編集、webディレクター、web編集者を経て、現在。QUISHINCOMやShimoQuiRadioやっています。くいしん株式会社代表。Gyoppy!編集長。グビ会主宰。

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