イケウチな人たち。

by IKEUCHI ORGANIC

好きな人たちと考える、これからの豊かさ

イケウチな人たち。について

次の10年で世界は変わる。大人の仕事は「未来を変える仕組み作り」

- 「パタゴニア」日本支社長・辻井隆行 -

「We’re in business to save our home planet.」をミッションに、アウトドアウェアや食品を製造・販売しているパタゴニアの日本支社長・辻井隆行さんに、IKEUCHI ORGANICの代表取締役社長・阿部哲也が話を聞くインタビューの後編。
※前編はこちら

後編の話題は、辻井さんの「子どもたちと話す中で気がついた話」から始まります。

「大人たちは、どうして『分かっている』のに変われないの?」
「正論を言って世界は変わる? 違うなら、大人の仕事は仕組みを作ること」

「この先の10年で、世界は少しずつ、でも劇的に変わっていくはず」と語る辻井さんの言葉の端々に散りばめられる、示唆の数々。

「未来のために、私たちは一体何をしたらいいんだろう?」そんなふうに、少しでも悩んだことのある人に読んでほしい記事ができました。

論文や書籍、映画、科学者の警告が山のように溢れ、さらには、軍さえもが人類の安全を脅かしている最大の要因は地球温暖化であると言うようになったにもかかわらず、各国政府も企業も、あなたも、そして私も、この流れを逆転させ、問題を解消する道に進むことを拒んでいる。(引用:『社員をサーフィンに行かせよう―――パタゴニア経営のすべて』)

子どもたちはもう気がついている

辻井:こないだ札幌で、中学・高校生の話を聞く機会がありました。札幌市と市民が推進する「フェアトレードタウン」の活動の一環で行われたイベントでのことです。フェアトレードについて勉強していることもあって、「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」についても非常に詳しく、みんな「立派な目標を掲げるんであれば、大人たちはそれを行動に移してください」と口を揃えていたんです。

注釈:SDGs:Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略称。2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標

辻井:やっぱり、そういう若者の意識が今の世界の潮流を作っているんだなと改めて認識しました。

School Strike 4 Climate」という活動をご存知ですか? スウェーデンのグレタさんという高校生がひとりで始めた、気候変動について認識を改めてもらうための学校ストライキの活動が、今世界中に広がっています。

https://twitter.com/GretaThunberg/status/1091710612831432706

注釈:2019年2月、集中豪雨や干ばつ、記録的な猛暑など、地球温暖化が要因と思われる異常気象が世界各地で頻発していることに危機感を募らせたグレタは、「Strike for Climate」(気候変動のためのストライキ)というプラカードを脇に置き、スウェーデン国会議事堂前に座り込んで抗議した

辻井:彼女に共鳴した子どもたち – 最近だと120カ国近い国々の150万人以上の子どもたち – が、「学校を休んで」気候正義のためのデモに参加してるんですよ。

「優秀な大学まで出た政治家が、地球温暖化という人類の苦難に対して、何の解決策も生み出せていないのになぜ学校で勉強しなければいけないの?」というのが彼女たちの言い分です。もう、グウの音も出ないですよね。

キャプション:「100%再生可能エネルギーに変えるために、大人たちは今すぐ行動して」「きれいな空気や水、生き生きとした自然に囲まれた、美しくて安全な未来がほしい」と訴える子どもたち(引用:School Strike 4 Climateサイトより)

辻井:イギリスの子どもたちが投稿したインスタグラムなんかすごくトンチが効いていて、「問題を解決できない大人たちこそ学校に戻りなさい」なんてプラカードを持ってるんですよ。

1992年にブラジルで行われた環境サミットの、当時12歳だったセヴァン・スズキさんの有名なスピーチがあるじゃないですか。その時、セヴァンさんは「私たちの世代にツケを回さないでください」と大人にお願いしたわけなんですが、今の子どもたちは、もはや大人をあてにしていないんです。むしろ「もう大人は信用できない」と。

「大人たちは何かをやるやる、と言ってやらないし、地球温暖化の原因は明らかに二酸化炭素の増加なのに、問題を解決しようと取り組むどころか、毎日の暮らしを変えようとせずに、問題を加速化させているのが本当に理解できない」と。

札幌でも、言葉はもっと柔らかかったけれど、みんな同じようなことを言っていました。

阿部:若い子は、優秀な子が多いですよね。

辻井:はい。彼らはまだマイノリティかもしれないですし、学校で意識高い系と揶揄されたり、いじめとかもあるそうです。でも、そういう子たちって増えてきているし、僕から見ると思ったことをきちんと発信して、行動に移すことができる、とても心強い存在に見える。

昨年、日本の損害保険会社の自然災害保険金が、1兆3千億を超えたというニュースを耳にしました。史上初のことで、東日本大震災があった2011年を上回ったそうです。気温が上がれば、台風は間違いなく強暴になるし、集中豪雨も起きるし、自然災害による被害は増え続けるはずです。

子どもたちはそういった事実を前に、「大人たちは、本当にどうして、直面している地球温暖化の問題を早急に解決しないのか」と問う。

大人同士だとどうしても「経済性を維持しながら善処する」とかそういう話になるんだけど、彼らは純粋なので「なんで、化石燃料を燃やしたら駄目だとわかっているのに、それに依存する経済システムを変えられないんですか。それがわかりません」と。

やっぱりね、中学生とか、高校生から直接話を聞くと、僕もすごく思うところがありました。

10年以内に何かが変わってくるだろう

辻井:ちょっと話が遠回りになるんですが、阿部さん、IPCCってあるじゃないですか。

注釈:IPCC:気候変動に関する政府間パネル。「Intergovernmental Panel on Climate Change」の略称。国際的な専門家でつくる、地球温暖化についての科学的な研究の収集、整理のための政府間機構

研究者の中には、たとえばグリーンランドで氷が溶けることを研究している人もいれば、海洋温度上昇の問題が専門の人もいる。

とにかく世界中の知見を集めて、今地球がどういう状況なのかを客観的に監視しましょうという仕組みです。

そのIPCCが発表する報告書には、日本人の執筆者もいらっしゃるんですね。そのおひとりである、国立環境研究所の研究者にお話を伺ったことがあるんです。

阿部:うんうん。

辻井:そうしたらね、その方は「気候変動問題を解決するというのは実質的にはあり得ない」という趣旨のことをおっしゃったんです。

パリ協定では、「産業革命以前に比べて、2100年までの気温上昇を出来れば1.5℃以内に抑えたい」と言っていた。でも、2018年のIPCCの特別報告書では、「このままいけば、早ければ2030年には1.5℃上昇する可能性が高い」と警告が出された。

国連大学が発表した日本の自然災害発生数のグラフを見ると、1980年代から2015年までで、その数は2倍以上になっています。集中豪雨、大型台風、洪水が頻発するようになり、多くの方々が犠牲になった。気温が1℃上がっただけで、これだけの被害がある訳なんですが、あと0.5℃気温が上がれば、その数はさらに増えていく。

気候変動問題というのは、僕たちがそういう事態に直面したときに、限られたリソース、つまり税金とか、自衛隊の支援とか、ボランティアさんの活動とか、そういうモノを誰に割り当てるかという「優先順位付けの話」なんです、と。

そういう趣旨の話を聞いたときには、本当にショックでしたが、それが現実に起きているわけなんですよね。

辻井:何が言いたいかというと、さっきの札幌や「School Strike 4 Climate」の子どもたち然り、これから、そういうことに声を上げる若い子たちはどんどん増えるだろうということ。

そして彼らは、恣意的に編集されたテレビや新聞などのマス情報ではなく、ウェブやSNSで信頼できる人たちからの情報をより多く目にするようになる。そうやって育っていく子どもたちが、社会に出るまでの、これからの10年。彼らが大人になった時に、これまでと同じことが繰り返されるとは、僕には到底思えないんですよ。

だから、この10年の間に、完全に世界の仕組みがガラリと変わるというか。僕たちの世代が生きてきた社会システムやその中で重宝されたある種の知識やスキルはもはや通用しなくなるのではないかと思います。

辻井:僕はそういうことを何となく感じてきました。高校や大学で講演をすると、彼らに就職の相談をされることが時々あるんですよね。

「社会には出たいけど、未来や環境について真剣に取り組む企業があまりにも少なくて、働きたい会社がない」と。それを聞くたびに、大人の責任を感じてきました。だって、選択肢がないわけじゃないですか。

かつて就職先の花形と呼ばれた大手広告代理店に入ったのに、3年目で辞めたいという若者にも会いました。自分が本当は価値があると思っていない商品を売るための広告なんて作りたくない、と。

何度も繰り返しになるけれども、すでにモノゴトはゆっくりと動き出していて、やっぱり10年以内には劇的な変化が起こりそうな気がします。

逆にいうと、イケウチさんみたいに、環境問題や人権問題に真面目にちゃんと取り組んできた会社は再評価されるタイミングだろうし、そのときの役割は大きいと思います。

そんな社会になる中で、英語で「Like-minded Company(ライクマインデットカンパニー)」と呼ばれるような、同じ志を持った会社たちのゆるいネットワークみたいなものが、もっと形成されていくようになると思います。

大人の仕事は仕組みを作ること

辻井:あと、そうそう。もうひとつ聞いてもらいたい話が。ある大学生の男の子の話なんです。

彼は、偶然参加した講座でフェアトレードという存在を知って、日本のフェアトレードの認知度は低いのに、イギリスのフェアトレードの認知度は非常に高いのは、なんでだろうと疑問を持ったらしいんですよ。

そこで実態を知りたいと1年間大学を休学して、ロンドンとアムステルダムに留学したんですが、帰ってきた時に話を聞くことができました。

「どうだった?」と聞いたら、「(フェアトレードの)ロンドンの認知度が高いというデータは出ているけど、僕の実感値はもっと低かったです」と。どうやらロンドンのスーパーで出口調査をしたらしいんです。「フェアトレードを知っていますか?」って。
そうしたら、フェアトレードを知っている人は3割ぐらいだったそうです。でも、例えばロンドンのスーパーで売られているチョコレート菓子の「キットカット」は、すべてフェアトレード認証済みなんだそうです。

なぜかというと、「チョコレートの原材料であるカカオ農場で、子どもたちが奴隷のように働かされている」という事実を知った主婦の人たちが怒って、生産元の企業に猛抗議をしたからだと。

それで、2010年からイギリスで売られるキットカットは、すべてフェアトレードチョコレートを原料にしたものに変わったそうです。

辻井:この事例から彼が学んだことは、フェアトレードのことを全員に知ってもらうことではなく、それが手に入る仕組みを作ることの大事さだったと。一定層、事実を知っている人がいれば、それが社会システムを動かす原動力になる。そうすると、たとえフェアトレードを知らない人がいたとしても、仕事で疲れて甘いものが食べたいとスーパーに行ってキットカットを買ったら、自動的にフェアトレードに貢献できる仕組みが作れると。

で、その大学生は「大人の仕事は、正論を言い続けることではなく、その仕組みを作ることです」と僕に伝えてくれました。

……だからね、イケウチさんもいろいろなこだわりがあると思うんですけど、直営店や卸売先のお店はもっと多い方がいいですよ。もっと気軽に手に取りたいじゃないですか、こんないいタオル。

仕事帰りの最寄駅で気軽に買えたり、誰かにプレゼントしたいなと思ったときに、どこかのお店の一コーナーでサッと買えたり。

ストーリーも背景も伝えたいことは多いと思うけれど、もっとお客さまとIKEUCHI ORGANICのタオルのタッチポイントを増やす方向に動いてみる。

それはまた新しい風当たりの強い言葉をいただく機会を増やすことにもつながるかもしれないけれど。次のアクションとして、そういったことも考えてみるのも良さそうですよね。

もしかしたらそれが、新しい環境問題改善の仕組み作りや、地球を守ることにつながっていくかもしれないですし。

この日は辻井さんが愛用しているコットンヌーボー2013を持参してくれました

知ること以上に大切な、助け合える仕組み作りを

辻井:自分に矢印を向けてみると、僕も本当に無知だし、知らないことがたくさんあるといつも感じます

たとえば「ヤングケアラー」という言葉。先日初めて耳にしたんですが、聞いたことありますか? いろいろな定義があるようですが、病気や障害を抱える家族のケアやサポートを行う30歳未満の方々のことを指す場合が多いそうです。

先日僕は、実際に出会ったんですよ、10代の大半をヤングケアラーとして過ごしたという人に。その間、ずっとお母さんの介護をしていて、学校に行くこともままならなくて、もちろん部活動できないし、アルバイトもしたことがない。友だちも少なくて、そこからいきなり働こうとしても、社会人経験がなさすぎて働き口を見つけることも簡単じゃない。

そういう人が、日本に21万人もいるそうです。でも、彼ら彼女たちは、実際に介護の経験から忍耐強く、責任感が高く、実行力もある。だから社会的な要請は高いはずだ、と。

そういうヤングケアラーの人たちが活躍できる社会的な場を用意したい、という会社を起業しようとしていた宮崎君という青年に出会わなければ、僕はそういう問題を知らずにいた。

何が言いたいかというと、当然ながら、知るということは大切なんだけれど、ひとりがすべてを知って、すべての問題に対して行動を起こすことは難しい。

大切なのは、ある問題があったら、そのことを社会の5人にひとりぐらいは知る機会があって、そういう人たちの働きかけで、その問題を生まないような、もしくは問題が起きたとしても解決できるような、そういう社会の仕組みが出来上がる。そういう形で、お互いがお互いをカバーし合うような仕組みができたらいいのになって思っています。

辻井:北米先住民の言葉に、「人生の時間の3分の1は社会のために使いなさい、3分の1は未来のために使いなさい、そして残りの3分の1は自分のために使いなさい」というのがあるらしいんですが、僕はそれを知ったとき、「3割は自分のために」っていいなと思いました。今の社会では、人生の7割も社会や未来のためだけに捧げることは難しいだろうけど、毎日を充実感を持って楽しむことが出来て、それでいて、人生の3割くらいを社会や未来のために使うことが生きがいに感じられるようになったら素晴らしいのになと感じます。

そういう意味でも、環境問題の解決策を個人の行動に100%押し付けるよりも、むしろ社会的な仕組み作りをしたほうが、断然効果的だし重要だなと思うんです。でもそのためには、ある問題について社会全体の2割くらいの人が関心を持ったり、理解したり、声を上げる必要がある。その部分の啓蒙活動はやっぱり大事なんだと思います。

そういうバランスを考えて、これからも行動していけたらよいですよね。

取材を終えて

辻井さんとのお話は、2時間に渡りました。

インタビューが終わった後、『イケウチな人たち。』編集部員は、よく感想を言い合いながら電車に乗ったり、バスに乗ったりして各々の帰路につきます。けれどこの辻井さんとのお話を終えたあとは、全員「視座の高さに衝撃を受けた」と、どこか気持ちの良い挫折感を味わったような感覚に陥りました。

気候変動の話、カーンザの話、環境再生型農業に挑戦していくことが、もしかしたら「僕たちの新しい未来の切り開き方」にあたるのかもしれないという話。

そして、この地球に今生きる子どもたちは、何を感じ、何を考え、どんな行動をし始めているのか−−。

「目の前」「次の四半期」そうではなくて、もっと長い目で考えたら、私たちは次に何を選んだらいいのだろう?

「ライクマインデットカンパニー」の概念は、広く考えたら多分、法人だけではなくて個人にも当てはまるのではないかな?と、この記事を書いている伊佐はお話を聞きながら思っていました。

じゃあ、その辻井さんがおっしゃっていたような輪が、この先もじんわりと広がっていったなら、その先にはきっと?

記事のおまけ。インタビュー当日、お昼にパタゴニアさんの社員の方も大好きだという、ケータリング・オーガニックランチをいただきました

食は最大の楽しみ。社員の健康を考えて、定期的にパタゴニアはケータリングをお願いしているそう。この日は湘南大磯にあるウィルドさんのランチ

パタゴニア(patagonia)
執筆:伊佐 知美/撮影:木村 雄司/編集:藤村 能光

WRITER

ライター / フォトグラファー
1986年新潟県生まれ。横浜市立大学卒。三井住友VISAカード、講談社勤務を経てWaseiに入社。どうしても書き仕事がしたくて、1本500円の兼業ライターからキャリアを開始。現在は世界各国、日本全国を旅しながら暮らしています。とにかく旅と写真と文章が好き。

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