イケウチな人たち。

by IKEUCHI ORGANIC

好きな人たちと考える、これからの豊かさ

イケウチな人たち。について

ぼくらの進化に犠牲はいらない。いま、企業が見つめるべきは「非ロジカルな世界」だ

- 長野県立大学教授 京都市ソーシャルイノベーション研究所「SILK」所長 大室悦賀 -

サスティナブル。

2015年には、持続可能な開発社会──つまり、サスティナブルな社会を目指す「SDGs」が国連から発表されました。

SDGsは、21世紀の世界が抱える課題を包括的に解決する17の目標を、世界中に向けて打ち出しています。

日本でもSDGsは話題のワードとなり、行政が、NPOが、企業が、サスティナブルな社会の実現に向けて様々な取り組みをしています。

けれどそもそも、なぜ、サスティナブルな社会を考えることが、大切なんだろう?

今回、イケウチな人たち編集部は、長野県立大学教授であり、京都市ソーシャルイノベーション研究所「SILK」の所長も務められる、大室悦賀(おおむろのぶよし)さんにお話を伺いました。

社会の課題をビジネスの手法で解決するソーシャル・ビジネスをベースに、NPOなどのサードセクター,企業セクター,行政セクターの3つのセクターを研究している方です。

2016年に上梓された『サスティナブル・カンパニー入門』では、「社会課題を生まない経営をする企業」の事例として、IKEUCHI ORGANICが取り上げられています。

サスティナブル・カンパニーのあり方について、IKEUCHI ORGANICの代表である池内計司に、強く影響を受けていると話してくれた大室さん。

IKEUCHI ORGANIC・代表、池内計司
写真引用元:共通点は、本物を伝えるものづくりの美学。The Beatles×IKEUCHI ORGANIC(灯台もと暮らし)

大室さん自身は、サスティナブルを目指す意義として、根本に「人間の進化」を前提としています。

そしてもうひとつ、サスティナブルを実現するために、今問うべきは「企業のあり方」だと説くのです。

「人間の進化とはなにか」
「サスティナブルとの関連性はどこにあるのか」
「そのために企業は、何ができるか」

池内代表に共感するポイント、IKEUCHI ORGANICには共感できないポイントと紐付けながら、大室先生の頭の中を一つひとつ、解き明かしていきます。

社会課題を生まない努力をするのが「サスティナブル・カンパニー」

── 大室さんと池内代表は、出会ってどのくらいになるのでしょう?

大室:
もう15年くらいのお付き合いだと思います。

まだ社名が「IKEUCHI ORGANIC」じゃなく「池内タオル」で、タオルをつくる電力を100%グリーン電力にして間もない頃に出会いました。

── 出会ったきっかけは?

大室:その頃、グリーン電力を導入している企業って、まだ少なくて。

どうやってアプローチしたかは忘れちゃったんですけど、とにかく僕はその取り組みに興味を持って、池内さんとお話する機会をもらった、という感じです。

── 『サスティナブル・カンパニー入門』では、IKEUCHI ORGANICが紹介事例となっていました。サスティナブル・カンパニーに選ばれた理由を伺いたいです。

大室:そもそも僕は、企業は「社会課題を解決する」のではなく、「社会課題を生まない」努力をする責任があると思っています。

それを実践しながら生き残っていける企業が、サスティナブル・カンパニーだと考えているんです。

そのヒントをくれたのが、まさに池内さんでした。

池内さんにいちばん最初に会ったとき、「べつに環境問題を解決するために、ビジネスをやっているつもりはないよ」とお話されていたのが、とても印象的だったんです。

── グリーン電力を導入しているにも関わらず。

大室:「環境に配慮したビジネスをするのは、当たり前」という意識が、池内さんにはあって。

当時の僕には、池内さんが環境問題という社会課題を解決しているようにしか見えていなかったんだけど。

そのお話を聞いて以降は、「社会課題って解決するんじゃなくて、そもそもない方が幸せ」というふうな考え方に変わっていきました。

── サスティナブル・カンパニーという言葉についてですが、社会課題を生まないことが、どうして企業の役割になると考えられているのでしょうか。

大室:今、僕たちの生活のほとんどが、企業に依存している状態だからです。

とくに都会は、たとえばコンビニひとつとっても、もし存在しなければ我々は生活できないですよね。

しかし、経済活動は水も使うし、人が動くだけCO2を排出してしまうし、必ず地球環境に負荷をかけてしまう面があります。

だから企業はもう、みんなの生きる地球に対し、最小限の環境負荷を考えて経済活動をするしかないんです。たとえばパタゴニアが、「責任ある経済」という考え方を大切にしているように。

僕は、企業は人を幸せにするために存在していると考えています。そして、だからこそ企業のあり方を問わないといけないと思っているんです。

「本当にサスティナブルな企業か、サスティナブルな社会を実現できるあり方か」と。たとえばIKUCHI ORGANICの規模が拡大すると持続可能な社会に近づくというように。

人は「気づく」ことができる生き物だ

── そもそもの疑問なんですけど、どうしてサスティナブルな社会が必要なのでしょう? いえ、世界が終わればいいなんて、思ってはいないのですけど。自分の幸福とどう関わるのか、ちょっとピンときていなくて……。

大室:今、自分の幸福と仰いましたよね。

人間にとっての幸福って、なんだと思いますか?

── うーん……。

大室:僕は、「気づけること」だと思います。

何かに気づくと少なくとも、同じ毎日を送るようにはならないでしょう。やっぱり、毎日同じだとつまらないですから。

大室:道端に咲いている花を発見するとか、遠回りしたら可愛いお店を見つけたとか。

そういうのが楽しいし、自発的に気づけるのが、ロボットじゃない人間の素晴らしさじゃないですか。そして、気づくためには多様性が担保されていなければなりません。そこがSDGsと関連していきます。

でも、今の日本人って、気づく機会と多様性を損なっているんです。

── 何によって?

大室:「効率化」によってです。

まず効率化についてお話しすると、背景としては、日本はバブル経済が崩壊したとほぼ同時に、阪神淡路大震災が起こります。

── 地下鉄サリン事件や、十数年後にはリーマンショックなんかもありましたね。

大室:政府だけでは解決できない社会問題が、たくさん生まれたんです。結果的に、アメリカの比ではないけれども、日本でも貧富の格差が広がってしまいました。

そこで、日本が走った方向は、効率化。資本主義というシステムの徹底化です。

企業も学校も、我々の生活も、すべてのものが効率的でなければいけないという発想が、どんどん浸透していったんです。
もっとも簡単に何かをつくれるとか、お金を稼げるとか。たとえば、大学受験にしても、いかに最短で受かるかとか。就職活動だってそうでしょう、いかに多くの企業から最小のエネルギーで内定をもらえるか……というふうに、あらゆることが効率的であることが正しい風潮になっていった。

また、効率化が進んだ結果として、あらゆることが同質化していきました。みんなと同じでなくてはいけない同質圧力が、いじめを生んでいったというのは、同質化の負の側面です。

効率的というのは、言い換えれば、ロジカルであるということ。

今って、30階建てのビル設計がエクセルで1日でできちゃうんですよ。

── ええっ、そんな簡単に。

大室:ロジックになっているものは、簡単にマニュアル化することもできるということです。特に東京の生活は、ロジカルに回っています。

背の高いビルがあるだけでなく、たとえば電車でどの乗車口に乗れば効率的に乗り換えができるか、アプリで瞬時にわかるでしょう。

どうやって乗り換えして、何口から出て、どういうルートなら最短で会社に行けるのか……でも、効率化することばかり考えていたら、先ほど述べたように、何にも心が動かされないじゃないですか。

大室:僕たちが何かに気づくこと。それは、論理の向こう側、まだ解き明かされていない「非ロジカルな世界」を見つめる行為のことなんです。

SDGsが打ち出したような、地球環境や労働環境がサスティナブルであることはもちろん大切です。けれど、まずは我々人間がハッピーであるために、非ロジカルな世界が残り続けること、それがサスティナブルであることが、僕はとても大切だと思ってます。けれども現在の資本主義システムでは、それは達成できない。

今まで見えていなかった世界、または、周りの人は見えていないけど自分には見えている世界は、じつはたくさんあります。なぜなら僕らの見ている世界って、とても小さいから。

いま世界の反対側で何が起こっているか、わからないでしょう?

── わからない世界は、誰にとっても必ず存在するんですね。

大室:そうです。そして、非ロジカルな世界に気づくことから、人は進化することができるんです。

人も企業もニッチな環境で進化する

大室:ダーウィンの進化論ってあるじゃないですか。

── はい。

大室:生物進化の過程について、ダーウィンは、「生物同士がよりよい環境に適応しようとし、生存競争をしながら優位な個体が残っていく」と論じています。

だけどその理論だと、人間がどうして極寒のロシアに進出したのか、説明できないんです。

── 極寒という生存に不利な状況で、存在してしまっているから。

大室:もうひとつ、進化論があって。

それは、「生物はすべてニッチな環境下で、その環境に適応しようとして進化する」という考え方です。ニッチな環境下というのは、先駆者がいない世界のこと。

── まさに、非ロジカルな世界ですね。

大室:僕はそっちの方が好きな考え方です。競争しなくていいから。

ニッチな世界って、すでに誰かが住んでいた世界じゃないので、奪う必要はないけど厳しい環境下ではあります。

けれど、昔の人は「苦しい道とそうでない道、迷ったら苦しい道を選びなさい」と言ってきたじゃないですか。それはやっぱり、ニッチな環境が人を進化させてきたからじゃないかと思うんです。

また、厳しい環境に自分を適応させていくことで、その状況は当たり前になっていきます。コンビニとかスマホなんかは、もともと存在しなかったけど、今は当たり前になっていますよね。

企業の進化だって、いろんなことに環境適応して、市場をつくっていった結果なんです。だからある意味、生物進化と会社の進化の過程は同じものだと思っています。

非ロジカルな世界に、人が進化する可能性があるし、じつは企業にとっても、そこにビジネスチャンスがあるんじゃないかと。

── 非ロジカルな世界に適応していくために、大切なことはなんでしょう?

大室:個人の中に多様性を持つことです。「自己内多様性(Intrapersonal Diversity)」というのですけど。

自己内多様性を持つためには、他人の存在が不可欠です。他人と自分は、おなじものを見ても必ずどこかしらちがう考えを持つ生き物ですから。

個人の中に多様性を持っていないと、今の社会の複雑性を汲み取ることはできません。つまり、外部環境の変化に対応できないんです。

僕の思う、池内さんのすごいところは、非ロジカルな世界の中で、いろんな利害関係者の意見に耳を傾けるところ。

昔は、代表のメールアドレスがイケウチのサイト上に載っていて、そこに1日に何十件とメールがやってくるわけです。それにひとつひとつ丁寧に返信してきた歴史が、池内さんにはある。

納得できる部分とできない部分を自分なりに咀嚼して「こっちが正しい」と思えば、それがたとえ前例のないことでも、どんどん描いていく人です。

大室:だけど正直に言うと、僕にはIKEUCHI ORGANICの中で池内さんだけが、非ロジカルな世界を必死になって探しているように見えるんです。特に、会社名が「IKEUCHI ORGANIC」になってからは。

ブランド力が強いせいか、社員の皆さんが自分で非ロジカルな世界を探すことや、わからない世界を問うことをせず、いかに池内さんの考え方に適応するかばかり考えているように見えるんです。

池内さんの考え方やブランドに依存してしまうことは、その人自身が本来見える世界をすごく狭めてしまうことにつながります。会社として進化していくため、サスティナブルであるために、IKEUCHI ORGANICは今のままでいいのか、僕はけっこうクエスチョンマーク

非ロジカルな世界を問い、哲学を持って描く

── 池内代表のカリスマ性は、社内外の方々からよく伺います。

大室:池内さんは、論理では説明できないことを問う姿勢を、一貫しているんです。

たとえば誰かをすごく好きだとして、その愛をロジカルに説明しようとしても、無理な話です。パートナーをすごくだいじにしたいと思っても、どのくらいだいじにしたいか論理的に説明なんてできない。

けれど説明できないことを問うことで、歴史は前に進んできたわけじゃないですか。

たとえば、ニュートンが木からりんごが落ちたという現象に対して、「なぜ落ちるんだろう?」と問わなければ、科学は発展しなかったように。

大室:僕は、池内さんとIKEUCHI ORGANICの歴史も、問う姿勢の連続だったと思うんです。

そして、非ロジカルへの問いに対する解を、池内さんなりの哲学を持って描いてきたんだと思っています。

哲学というのは、人文科学と自然科学の両面を含んだ分野です。つまり理論だけでは説明できない世界を、哲学は持っているということなんです。哲学は未知の世界を探求する学問だから。

たとえば、IKEUCHI ORGANICの場合、オーガニックコットンを素材に使っていますよね。けれど遺伝子組み換えされた植物が有害であるとは、科学は証明していないんです。どのような影響がでるかはわからない。

それでも池内さんは、周囲の方々と意見を交換したり、自分の納得感と照らし合わせる中で、やっぱりオーガニックな素材を使うことが大切だって信じている。それが池内さんの哲学で、そのためにどういうプロダクトを作ればいいか描いていく力がある。

アートシンキングっていうんですけど。

── アートシンキング。

大室:まだ、この世にないものを描く力のことです。

スティーブ・ジョブズが明らかにしてくれました。

── iPodやiPhoneなどですね。

大室:個人の「こういうものがあったらいいな」、「こういう世界になったらいいな」がベースにあって、それを形にしていく。

アート・シンキングは、自分だけが見えている非ロジカルな世界を、それが見えていない周りの人たちに可視化する手段なんです。

僕がいま思う、企業を進化させる手段って「自分なりの哲学を持つこと」「理想を描いていくこと」のふたつしかなくて。

でもこれは、経営者である池内代表だけがやればいいことではないと思っています。たぶん池内さんは社員がただIKEUCHI ORGANICに適応していくことは、全然求めていなくて。

大室:たとえば「IKEUCHI ORGANICのタオルで、こんなふうにライフスタイルが変わった」とか、「もっとこんな商品があったら嬉しい」とか。

プロモーションひとつとっても、そういう声が生き生きと表現されるような光の当て方が、IKEUCHI ORGANICをどんどん成長させるんじゃないかと。

ビジョンが強かったり、カリスマがいたりする会社は、そこに「いかに適応するか」を考えがちになります。

けれど一人ひとりが、自分なりのIKEUCHI ORGANICを語れることが、消費者と一緒にサスティナブルな社会を目指せる企業だと思うんです。

サスティナブルな社会は時間軸を守る

── ここまで、人も企業も進化のために、いちばん根本にあるのは非ロジカルな世界を見つけること、非ロジカルな世界から理想を描いていくことが大切だ、ということを伺ってきました。

大室:非ロジカルな世界に加え、SDGsが打ち出しているようなサスティナブルを考えることも、やはりとても大切なことなんです。

企業経営含め、我々がハッピーになるためには、非ロジカルな世界を見つけること、自己内多様性を持つことなど、たくさんのプロセスを踏まないといけないことをお話してきました。

── はい。すぐにできるかわからないですけど……。

大室:自分のタイミングでいいんですよ。進化するタイミングも、進化した形も、多様であっていいはずだから。

人間は、長い時間軸の中で進化する生き物なんです。いま、人は100年生きる時代と言われていて、つまり、100年の中で進化していく生き物だということ。

それって、必要だから与えられている時間の長さだと思うんです。長い時間を与えられないと人は進化できない、成長できない動物というのが前提としてあるということ。

ということは、少なくとも人が暮らす地球が、長い時間軸に耐えきれないといけないわけです。

「人が幸せを追求できる時間を、守りましょう」

SDGsはそういう宣言だと、僕は捉えているんです。

大室:「地球にも人にも、負荷をかけないようにしましょう」というのは、つまり両方がサスティナブルじゃないと、人は進化できないからです。

それから、人が進化を前提につくられているのだとしたら、それを追求する権利は誰にでもあるはずで。

だから、SDGsが大切にするような「すべての人に平等な、すべての人を犠牲にしない社会を」という話になってきます。

大室:けれど、SDGsが打ち出されてから、いろんな企業がSDGsを利用して競争しているのが今の現状です。

みんな胸にバッジをつけて、誰がいちばん貢献しているかって。

「すべての人を犠牲にしない」と謳っているのに、まったく逆のことをしている。おかしな話です。

── 競争から抜けださないと、サスティナブルな社会は実現しない。

大室:今、SDGsが打ち出されて、企業が考えるべき問いは「競争しないでビジネスするとはどういうことか」じゃないでしょうか。それも多様な方法で模索できるのが望ましいですよね。

そこに対する僕なりの答えが、「非ロジカルな世界を見つけて環境適応していくことが、企業がサスティナブルであるために重要」という話につながります。

たぶん池内さんは、ずっと競合なんて見ていないんですよ。いつも自分がやるべきこと、理想とするものを、ひたすら追いかけているだけだから。

執筆:小山内 彩希/撮影:木村 雄司/編集:藤村 能光

WRITER

1995年秋田県能代市生まれ。編集者・ライター。大学3年次から株式会社Waseiにインターンとして所属し、大学卒業とともに入社。「灯台もと暮らし編集部」。あたらしい形の創作チーム「創作メルティングポッド」や女子にとって野球をもっとおもしろくする「NFB(日本女子野球機構)」を運営。

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