イケウチな人たち。

by IKEUCHI ORGANIC

好きな人たちと考える、これからの豊かさ

イケウチな人たち。について

放っておくと社会は終わるかもしれない。農業と漁業で描く“持続可能な社会”とは?

- 「坂ノ途中」小野邦彦×「食一」田中淳士 -

このままの消費のあり方で、本当にいいのだろうか。未来にツケを残さないために、今の僕らに何ができるだろう?

環境問題をはじめ、貧困や飢餓、紛争など、様々な問題が地球上で起きるなかで、“持続可能な社会”というものへの関心が少しずつ高まってきています。『SDGs』という言葉をメディアで目にすることも増えました。

そんな中、IKEUCHI ORGANICのストアがある京都市では、1000年先に続く持続可能な社会を形づくっていく企業を後押しすることを目的に、「これからの1000年を紡ぐ企業認定」を2016年から始めました。

その第1回目の認定企業に選ばれた企業が、IKEUCHI ORGANIC。

そして、坂ノ途中食一です。

環境負荷の小さな農業を実践する新規就農者を増加させることで、農業のあり方を持続可能なものへと変えていこうとしている坂ノ途中。漁師という仕事を安定させるとともに、日本の魚食文化を発展させ、日本の水産業がこれからも続いていくことを目指す食一

分野は違えど、持続可能な社会を目指す仲間同士ということで親交を深め、気づいたら友人のような関係に。

「IKEUCHI ORGANICのお客様に、坂ノ途中さんと、食一さんのことを知ってもらいたい…」

IKEUCHI ORGANICの京都ストア店長である益田の想いから、坂ノ途中の代表・小野邦彦さんと、食一の代表・田中淳士さんをお招きし、「持続可能な社会に向けて」をテーマとしたトークイベント『共感を呼ぶ・おいしいオーガニック』を昨年10月20日に京都ストアで行いました。

“農業”と“漁業”が抱える厳しい現実。それを、どうやって明るい未来に変えていくのか?

農業と漁業という分野におけるイケウチな人であるふたり。彼らの話を聞いてください。

農業と水産業。陸と海で挑戦するふたり

―― まずは、それぞれの会社の取り組みについて、ご紹介いただけますでしょうか?

坂ノ途中・小野さん:はい。みなさん、こんばんは。坂ノ途中の小野と言います。

小野邦彦(おの くにひこ)さん。1983年奈良県生まれ。京都大学総合人間学部では文化人類学を専攻。外資系金融機関での「修行期間」を経て、2009年、株式会社坂ノ途中を設立。「100年先もつづく、農業を」というメッセージを掲げ、農薬や化学肥料不使用で栽培された農産物の販売を行っている。提携農業者の約9割が新規就農者。少量不安定な生産でも品質が高ければ適正な価格で販売できる仕組みを構築することで、環境負荷の小さい農業を実践する農業者の増加を目指す。その他、東南アジアの山間地域で高品質なコーヒーを栽培することで森林保全と山間地での所得確保の両立を目指す「海ノ向こうコーヒー」を実施。「オーガニックをひらこう!」をテーマに、オンラインプラットフォームfarmO(ファーモ)の開発運営も行う。

小野さん:坂ノ途中が何をしているかというと、野菜を売っています。

僕らの特徴をあげると、まずは農薬や化学肥料を使わずに栽培されたオーガニックな野菜が中心であるということです。しかも、伝統的な野菜からハイカラな西洋の野菜まで、年間400種類くらいの幅広い野菜を扱っています。オーガニックで、これだけの種類の野菜を扱っているところは、日本にはほとんどありません。

また、もうひとつの大きな特徴は、僕たちが取引している200軒ほどいる農家さんの、そのうちの9割が新規就農者。新しく農業に挑戦している人たちということです。

「新規就農の人たちを増やそう!」みたいな雰囲気が高まってきてますけど、実際には農業を始めたけれども野菜を売る販路がなくって、経営が成り立っていないことがすごく多いんです。そこで僕らは、新規就農の方々と組んで、彼らが農業で食べていける手伝いをしています。

そもそも農業って、めちゃくちゃ大きな環境破壊ツールなんですよ。大きな畑で農薬や化学肥料、化石燃料など、外から投入する資材に頼って単一の作物を育てることって、すごく環境負荷が大きいんですね。だから、僕らは、どうやったら環境への負担の小さい農業をやり続けられるのかを考えています。

新規就農をする人たちを増やしていき、彼らと一緒に環境負荷の小さい農業を増やしていくことが僕たちの基本路線です。

今は、そうして育てた野菜をネットで個人の方に販売したり、自分たちで小さい八百屋を開いて売ったり、小売店やレストランに卸したりしています。あとは、海外で有機農業の技術普及もしています。そんなことをやっている会社です。

―― ありがとうございます。次に、食一の田中さん、お願いします。

食一・田中さん:はい。みなさん、こんばんは。食一の田中と申します。

僕らは簡単に言うと魚屋なんですけど、全国の百数十箇所の提携している漁港から、全国の飲食店に産地直結で魚を卸すというのが僕らの仕事です。

そして、僕らは、みなさんが見たことも、聞いたこともない魚も扱っています。でも、食べてみると、めちゃくちゃ美味しい魚たちなんです。そんな魚を卸すことで、そのお店にお客さんがリピートしたくなるキッカケをつくっています。

例えば、どんな魚がいるかというと、僕のジャケットの裏にイラストが載っている「ミシマオコゼ」という魚がいます。

田中淳士(たなか あつし)さん。1986年生まれの佐賀県出身。実家は長崎県松浦にあるアジ・サバ水揚げ日本一の市場で約130年続く仲買業を営み、小さいころから地元の美味しい魚を食べて育った。大学3回生の時、第4回Doshisha New Island Contest にて優勝し、翌年1年間を休学し、在学中に「食一」を立ち上げる。産地直送の海産物卸として営業し始めるが、差別化に苦渋を経験。そこで、より現場を知るために、九州・四国の漁港をレンタカーで寝泊りしながらひたすら行脚する。そこでの情報・経験を通して、2年目に産地に眠る旨い地魚ブランド「海一流」を立ち上げる。現在は全国の100数十箇所の漁港と直接取引を行い、飲食店などに産地直送で都市部に出回らない変わった旨い地魚を卸している。

田中さん:このミシマオコゼは、食一が変わった魚を扱い出したキッカケとなった魚でもあります。

もともと1匹あたり10円から20円と、そんな値段で扱われていました。でも、薄造りにすればコリコリの食感がたまりませんし、から揚げにしても美味しいし、漬けにすればお茶漬けにも合う。食べ方次第で、すごく美味しい魚なんです。なので、飲食店に調理法や盛り付けの仕方などを紹介しながら卸しています。

僕らは中間に入っている立場なので、安く買って、高い値段で卸せば、すごく儲かります。ただ、そういうことはしません。

なぜなら、僕らは水産業というものを永遠に続いていく産業にしたいんです。

関わる人全員がハッピーになってほしいと思うので、買値を上げて固定で買っています。漁師の方には、食一はこの値段で買うから、その代わり、良い魚を獲ってきてくれよと言います。

漁師という職業を安定させて、日本全国の漁港が盛り上がっていく未来をつくりたい。そう思いながら、食一という会社をやっています。

学生時代の旅がふたりを変えた?

―― 今やっている事業を始めようと思ったキッカケは、なんなのでしょうか?

小野さん:キッカケとしてはいくつかあるんですけど、学生時代のバックパッカーの経験が特に大きかったです。

世界の遺跡を巡るのが好きで、今思うと「遺跡が好きと言っている、自分が好き」みたいなところもあったと思います(笑)。

でも、色んな遺跡に行っているうちに気づいたことがあって、遺跡って社会が終わった残骸なんですね。

これまで世界中で、人間は様々な社会を終わらしてきている。放っておいても社会は続くと思いがちだけど、放っておくと社会は終わるもんなんやぁと思いました。

そういう目線で見ると、農業って、めちゃくちゃ大きい環境破壊ツールなので、農業の分野で環境負荷を下げていくことをやりたいと思うようになりました。

―― 田中さんは、いかがでしょうか?

田中さん:僕が、食一を立ち上げたのは、大学4回生で休学している時なんですけど、「このご時世に、なぜ魚屋をやるのか」とよく聞かれます。

もともと僕の実家は長崎で100年以上続く魚の卸をやっていまして、今は兄貴が6代目です。そんな環境で育ってきたので、小さい頃から市場に行って、トラックへの積み込みを手伝ったり、市場で魚の競り(せり)を見たりしていました。

そこで色んな漁港を見て回ろうと思い、学生時代に1ヶ月間レンタカーを借りて、包丁、まな板、ガスコンロを車に積み、車中で寝泊まりしながら、九州と四国の漁港をずっと回っていたんです。

最初に立ち寄った漁港のおじさんに、漁に連れていってもらえることになって、気軽に参加したら、それがなんと12時間の漁。薄着で寒いわ、船酔いはするしで、最悪の船出でした(笑)。

田中さん:そして、漁港を回る中で、漁師さん、漁協さん、卸の方など、いろんな方から話を聞くんですけど、僕が小さい頃と比べて、なんか漁港の元気がないなぁと感じたんです

漁業の現状をいうと 漁師さんの平均年齢が65歳を超えてきているんですね。

漁師さんに「息子さんがあとを継ぐんですか?」と聞くと、「いや、ウチはこの代で終わる」と、皆さん答えるんです。息子は陸(おか)に上がって、陸の仕事をしてもらった方が安定もするし、給料も良いし、危険じゃないしと。

僕は漁業にお世話になって、育ててきてもらっている人間なので、なんとかこの状態を変えたいと思ったのが始まりでした。

常識を覆すことで生まれた、新規就農の光

―― それでは、持続可能な社会に向けて、農業と漁業において抱える課題と取り組みを教えてください。

小野さん:新規就農をする人たちを増やしていくことで、環境負荷の小さい農業を増やしていくことが僕たちの基本路線と言いましたが、新しく農業を始めた人たちが農業を続けるって、なかなか難しいです

小野さん:新規就農したばかりの頃は、基本的に生産量が少なかったり不安定な生産になります。

新規就農者が使える空き農地って、条件が悪いから空いているんです。面積が狭いとか、水はけが悪いとか、日当たりが悪いとか。そんなところで、機械も設備も充実していないところからやるので、当然そうなります。

そして、農産物の流通の世界において、「少量かつ不安的なものを扱うのは、アホのすることや」という常識があります。なので新規就農者がつくった野菜は普通の取引先はなかなか扱わない。

なので、近所の直売所に出荷することになるのですが、一部を除いて日本の直売所というのは、趣味で農業をやっているおじいちゃん、おばあちゃんが、「孫に小遣いをやれればそれでいい」くらいの感覚で激安で野菜を販売をしています。

消費者にとっては嬉しいことかもしれないけど、農業で食って行かないといけない新規就農者にとっては、めちゃくちゃ強力な価格競争に晒されるんです。

貯金がなくなり、お金が足りなくなって、夜にアルバイトを始めて、体を壊したり、精神的に追い詰められて自殺してしまう人がいるのがリアルな現状です。2年に1回くらい、僕が知っている人も自殺をしていたりするんです。新規就農って、そういう暗さを抱えているんですね。

小野さん:ですが、新規就農者は農業がやりたくて農業を始めるので、めちゃくちゃ勉強をするし、すごく働くので、出来てくる野菜が意外なほどに美味しいんです。

「少量かつ不安的なものを扱うのは、アホのすることや」という常識があるから、新規就農者の栽培したものは雑に扱われて、直売場で激安で売るしかなくなる。でも、消費者と農地をつなぐ人が「少量かつ不安定なものでも、価値がつくれる」という心構えでやったら、全然違ってくると思うんです。

だから、僕らは農家さんと細かいコミュニケーションを重ねながら、新規就農した人たちの農産物を売っていく。

今では、野菜を卸しているレストランから「思ったより安定しているね」と言ってくれるようになったし、京都で最も高い値段で野菜を売っている百貨店でも取り扱ってくれるようになりました。

魚をとる以外で、収入をもっと増やすには?

―― 漁業の分野においては、何が大きな課題でしょうか?

田中さん:持続可能な社会という点でいうと、漁業においては資源保護という大きなテーマがあります。乱獲によって魚がいなくなってしまうという問題ですね。

そこで現在、国によって様々な規制が設けられています。実際に、漁獲規制によって、よくなった例もあります。例えば、ズワイガニも一時期は激減した水揚げ量が、最近は戻ってきたと聞いています。

田中さん:でも、漁師さん達は毎日の生活のために魚をとっています。漁に行って、魚をとらないと収入が入ってきません。「みんなで資源保護をやりましょうよ」と言われても、規制を守りたいと思っても、やはり毎日の生活が大事なので漁に行ってしまうんですね。

正直、危険を犯してでも、行ってはいけないエリアに行って漁をしている漁師さんもいます。ベテランの漁師ですら、そこに行かないと魚がとれないんですね。なぜなら、決められた区間では魚を取り尽くしているので。

じゃあ、僕らが何をしていかないといけないかというと、これまで売ることのできなかった魚に価値をつけて、漁師さん達の収入を増やすということが、まずあります。

あとは、魚をとる以外での収入をもっと増やす必要もあるのではないかと思います。

どうしても、漁というのは自然相手なので予測ができません。「今日はめっちゃ大漁やったけど、明日はどうなるかわからへん」というのが漁業の現状で、博打の要素が強いんです。でも、これからは安定して収入を得ないといけないし、そうじゃないと漁師をやりたいという人もでてきません。

田中さん:そこで、例えば漁船を使って人を釣りに連れていくとか、観光的な事業をすることもできるんじゃないかと思うんです。そうすれば、漁港やその地域が盛り上がっていく。

実は、近い将来、食一では自分たちで漁船を持って漁に出ようと思っています。そして、その時には、魚をとりに行く以外の用途も色々と試してみようと思っているんですね。

このように、漁業ではない様々な形でお金を稼ぐことで、トータル的に漁師は儲かるという風に僕らが変えていきたい。それが、自然保護に繋がるのではないかと思っています。

共感と購買の間を埋めるものとは?

―― 今日話を聞いて、改めておふたりのやられている活動をとても応援したいと思ったのですが、何から始めたら良いでしょうか?

小野さん:そうですね。実は、僕らのことを知ってもらって、「坂ノ途中のことをすごく好きやわぁ」と思っていただとしても、野菜を暮らしの中で安定的に買う人というわけではなくて、そこが難しいなぁとずっと思っています。

やっぱり、僕らは野菜を売っているので、家で料理をする環境や習慣を持っている人でないと、僕らの商品はなかなか買えないんですよ。

でも、ひとつ、その狭間を埋めていくものとして『離乳食(ベビーフード)』をやり始めました。離乳食ってあんまり味付けしないから、素材が美味しいかどうかの違いが出やすいんです。

こんなことをしながら、せっかく僕らの考えに共感してくれている人が、僕らの商品を購買していただけるような機会を創っていきたいと思います。

田中さん:僕らも、これまで飲食店さんや業者さん向けにしか販売していなかったんですが、一般の方も気軽に僕らの魚を楽しめる取り組みを始めました。

地魚味わいセット』として、マンボウの腸みりん干や、ヌタウナギのから揚げとか、すごく美味しいと僕らが思うものを、消費者の方々が食べやすいように加工したものをギフトとして販売しています。

田中さん:あとは、先ほど、僕ら自身で漁船を持って漁にでたいと話しましたが、ゆくゆくは京都に直営の飲食店を作りたいんですよ。

僕らが美味しいと思う魚を、僕らが美味しいと思う食べ方で、僕らの店で味わっていただく。

そんなことをしていこうと思うので、京都に住んでる皆さんは、是非召し上がりにきてください(笑)。

―― まずは、購買して商品を楽しむというところから始めていくのが良いのかもしれませんね。今日は、おふたりとも、ありがとうございました!

***

少なくない人数が行き詰まってしまう新規就農者。規制を破る危険を犯してまで漁に行かないと生活が成り立たない漁師。

目の前にある野菜や魚が身体に良いかどうかを気にすることはあっても、その後ろにいる農家や漁師の方々の暮らしにまで想いを馳せることって、なかなか難しいのかもしれません。

でも、小野さんと田中さんの話を聞き、目に見えないところを見ようとする意思が、僕たち消費者も大切なのではないでしょうか。

人間にとって生きていく上で、大切な食。その食において農業と漁業は欠かせないもの。

その農業と漁業において、持続可能な仕組みづくりに挑戦する坂ノ途中と食一をますます応援したいと思いました。

小野さん、田中さん、ありがとうございました!

坂ノ途中 / 食一
執筆・写真:井手 桂司/編集:藤村 能光

WRITER

1984年、熊本生まれ、埼玉育ち。ブランドエディターという肩書きで、企業の持っている物語を多くの人の心に届けるお手伝いをさせていただいています。オーガニックそのままに個性的なIKEUCHIの人々がチャーミングで大好きです。IKEUCHI ORGNIC 公式 noteの編集も担当しています。

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